69.足並み
目の前の凄腕とルーシェが一致してしまえば、その凛々しい姿は萌えでしかなかった。氷のように冷たく鋭い雰囲気を纏い、影を使いこなす姿なんて 男顔負けのカッコ良さ、萌える。あぁ、惚れてしまう!
難しい話をしている三人を他所に、状況がわからない真緒は妄想の世界を旅していた。人の命が掛かってる、決してふざけているわけではない。
何とか派とか長ったらしい貴族の名前を言われたって正直解らない。質問して話の腰を折るより、邪魔をしないのができる女でしょう?
国王暗殺の企みは、計画の全てでは無いものの情報を得ていたようだった。ある程度は宰相の手によって対策が講じられているようだ。勿論、テリアスがサラバイルと接触した事実も知られていた。そのことに話が及んでもテリアスの顔色は変わらなかった。真緒の命を狙った事実に言い訳をするつもりは無い、そう言い切るとライルの顔つきが変わり、ルーシェが諌める。
もういいじゃん 、生きてるんだし 。
確かに怖かったし、怪我したし、許せない気持ちはある。でも、テリアスが信念のもとに行動した結果だ。国王もヴィレッツ殿下もテリアスも この国を愛し、争いのない豊かな国であり続けることを願っている。
目的は一緒なのだ。その手段を間違えただけだ。
真緒の心の声は言葉に紡がれていたようだ。三者三様の面持ちで真緒をみつめていた。
その視線に気づいて、逆に真緒が驚いた。心の声、漏れてました…?こうなったら言うしかないか。
「私は…確かに命を狙われて怖かったし、許せない。でも、テリアスさんがこの国を思う気持はライルやルーシェと同じだと思う」
だから今は、せめて今だけでも協力して この企みを止めようよ。誰かが死ぬなんて絶対にイヤ。
ライルの手が真緒の頭を撫でる。
頭なでなで …子供扱いじゃん!ライルを睨むと、よくできました的な笑顔を向けられた。まぁ いいですけど。テリアスを見れば目を見開いてこちらを見てる。ルーシェは怒ったような困ったような顔をしていた。
今は争ってる場合じゃない、協力するときだ。真緒はそんな思いを込めて一人ひとりを見つめ返した。
三人はそれぞれの情報を出し合い、擦り合わせしていった。真緒も王と対面した夜に庭園で聞いたことを話した。テリアスの情報と照らし合わせると、聖殿の水路に黒い油を流して火を放ち、それによって逃げ道を塞ぎ、国王を始め王族を抹殺するつもりではないか、そんな結論に至った。黒い油がもし重油のようなものを指すなら、神殿は火の海になる。
すでに祭壇裏にある水路の引き込み口には蜘蛛が配置されている。王族の警備はライックが担っていると聞いて、真緒はホッとした。
予想しない事態に備えて、三人は聖殿へと向かう方向で話が進んでいた。ん?三人?四人の間違いでは?
そんな疑問をライルは一蹴した。
「その脚でどうするの?マオは先に避難するんだ」
冗談がいえる雰囲気は微塵もなかった。
「暗部も動くし、近衛も騎士団もいる。マオは足手まといだ」
これに関しては三人の意見は一致しているようだった。こんなところは団結を求めてませんけど。
「護衛をつける。このまま神殿をでるんだ」
ライルの言葉は、反論を許さない威圧を感じさせ、真緒は押し黙った。確かに専門の人たちがちゃんといるなら私の出番はない。かえって邪魔なのもわかる。
それで安心して三人が動けるなら…真緒は今度は納得して頷いた。




