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68.共闘

「マオ、お前はライルと戻れ」

テリアスは真緒の背中を押すと、ライルに背を向けた。ライルは真緒を自身の胸に引き寄せると、力を込めて抱きしめた。ライルの体温が真緒を包み込む。

いかん!寛いでいる場合じゃない!

真緒は名残惜しい気持ちを追いやり、ライルの胸を両手で押した。が、ライルは更に力を入れて真緒を離そうとしなかった。

「ちょ、ちょっと!離して」

真緒の抵抗に明らかに不満顔で、力だけは緩めてくれた。少しの自由を得て、真緒はテリアスに向き直った。

「待ってよ、私も行く」

ここまできたのだ。絶対に止める。ここで離脱は有り得ない。

「…なにをする気だ?」

頭上から低い声が響く。テリアスはライルに背を向けて振り返ることなく答えた。

「ビッチェル王子派がこの神殿で王の暗殺を企んでいる」

「火をつけようとしているのよ」

真緒が言葉を付け足す。真緒は テリアスが投獄されていたこと、そこから今までの経緯を話した。

そして、これから何をしようとしていたのかも。

「人が死ぬと分かってて、何もしないなんて 私 出来ない。何ができるかわからないけど、それを止めるために全力を尽くしたい」

真緒はライルの腕を解いた。分かってもらえなくても仕方がない。それでもいくつもりだ。テリアスに向かって歩みだそうとして、腕を引かれた。行かせない、掴む腕はそう語っていた。首を横に振り、掴む腕に手をかける。更にその手を掴まれた。

「ダメだ」

行かせない。ライルは真緒の足元に視線を移し、自身の足で真緒の右脚に触れた。

脳天を突き抜ける鋭い痛みが真緒を襲う。一瞬気が遠のいた。崩れる身体をライルの腕が支えた。

「そんな身体で一体何ができるって言うんだ!立っているのだって限界だろ!」

聞いたこともない荒々しい声。それだけライルが本気で心配しているのが伝わってくる。胸が熱くなるが、ここで引く訳にはいかなかった。

「まだお父さんに何も伝えてないの!お母さんは伝えないうちに死んじゃったのよ、もう後悔したくない。それに、大切な人たちが死んじゃうかもしれないのよ?そんなの絶対にイヤ!そうなるのが分かっているのに、逃げるのなんて嫌。私は私のできることをするの!」

離してよ!暴れる真緒をきつく抱きしめてライルは思う。強い意志と真っ直ぐな心を持つ彼女だから護りたいんだ。結局自分は彼女には敵わない━━━━━


「兄上、私は貴方がマオにしたことを許せない」

ライルは一呼吸おいた。

「でも、俺はマオを信じる。マオが信じる兄上に協力する」

真っ直ぐな視線をテリアスに向ける。ライルの瞳に迷いは消えていた。テリアスは驚きを含んだ視線をライルに向けた。二人は言葉もなく視線を絡ませた。

テリアスは深く息を吐き、何かを決意した表情をライルに向けて、手を差し出した。

「ありがとう」

そして、頭を下げた。ライルが息を飲むのがわかった。それだけテリアスの行動は想像外だったのだろう。

テリアスはプライドよりこの国を護ることを選んだ。ライルはわだかまりを押し込めて、兄に協力することを選んだ。この兄弟の関係の溝は簡単に埋まるものではないのかもしれない。それでも、いつか向き合える日がきたらいい、真緒はそう願った。


三人で祭壇裏にある水路の引き込み口へ向かう。

テリアスを先頭にマオを庇うようにライルが続く。ライルの背中を見つめながら進む路は、今までの不安を消し去るくらい安心に包まれていた。時折振り返り真緒を見つめる優しい視線が、痛みも怖さも和らげてくれた。

人の往来のある通路へと出る。真緒と同じ修道士の服装の者が多い。目立ちにくくするため、ライルを先頭にテリアスと真緒が続いて歩くことになった、これなら騎士が連れているようにみえる。フードを目深に被り、うつむき加減でライルの腰の当たりをみて歩く。

突然、ライルの足が止まった。

同時に真緒の身体はライルの背と壁に挟まれる。テリアスも胸元に手を伸ばし、二人は何かを警戒しているようだった。真緒でも分かる殺気に満たされる。目の前の二人のものではない。何が起こってるの?殺気しかわからない状態は心臓に悪い。

二人は微動だにせず、何かをみているようだった。ライルの背中から緊張感が伝わる。真緒がペンダントを握り込むと、大丈夫、と頭の中に声が響いた気がした。

長い時間そうしていたように思えたが、勝敗は一瞬でついた。二人が剣を振るう間も無く、囲まれていた複数の殺気はすぐに消えた。床を引き摺るような擦れた音がしたが、それもすぐに消えた。それなのに、二人の緊張は解かれなかった。

「…お二人が一緒のわけを説明して頂けますか?」

感情を感じない声だったが、声色は確かにルーシェだった。うわっ、叱られる!そんな場面じゃないことは1百も承知だか、この緊張感が怖すぎて思考が飛んでしまった。

ルーシェに誘導され近くの部屋へ入る。

私たち三人を囲むような気配があったけど、ルーシェって何者?もしかして私、ヤバい人を怒らせたかも。ここから説教タイムか、いや、そんな訳ない。そんな雰囲気ではなかった。テリアスはフードを外し、ルーシェと向き合った。

「ライル様はどちら側の人間か確認したい」

テリアスに一瞬目をやり、ライルに問う。ルーシェの声はどこまでも冷ややかだった。

「兄上は…今は味方だ。ここで起こる謀反を阻止すしたい」

ライルはことの経過をルーシェに語った。ルーシェの表情は読めないが、口を挟まず最後まで聞いていた。いくつかの質問と会話が繰り返されている。その姿をぼんやりと眺めた。

私の知らないルーシェ。

触れるだけで切れてしまいそうな鋭い刃、目の前の女性はまさに氷の刃だ。でも私は知っている。私に接してくれるルーシェが温かいことを。

人は誰でも色んな面を持っている。多面体の姿は場面によって、対する相手によって見方もみえ方も変わるもの。私は優しい面のルーシェを知っているが、目の前の姿も またルーシェなのだ。

自分の目でみて確かめたものが、自分の信じるもの。

自分の心の在処が定まったとき、ルーシェに名前を呼ばれた。真緒はルーシェにギュッと抱きついた。ルーシェの身体が強ばり、徐々に力が抜けていくのが分かる。

「私が怖くない?」

そんなことある訳が無い。真緒はルーシェの目を見つめた。

「怖くない。ルーシェはルーシェよ」

来てくれてありがとう、真緒が言葉にすると、ルーシェは初めて表情を崩した。

ルーシェはドア越しに何かを話すと、テリアスに近ずいた。

「協力しよう。我々も動きは掴んでいる」

その言葉にテリアスは騎士の礼で応えた。ルーシェの目が見開かれている。この人(テリアス)、今までどれだけ横柄だったんだろう…。






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