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67.惹きつけるもの

視線があったような気がした。

斜めからの視線を感じ振り返る。そこはただの壁。何かがある訳ではなかった。

ライルは視線の主を求めて、神経を集中する。感じるのだ、マオの気配を。気の所為ではない。渡りの樹で感じた()()()()()()()が、ライルにマオの存在を告げていた。視線を巡らしていると、マージオと視線がぶつかった。ライルは慌てて視線を外し、礼を取る。マージオはライルに傍に来るように告げると、人払いをしてから跪き礼を取るライルに耳打ちした。

「マオを感じ取ったのか?」

言葉は問われているが、確認のようだった。驚いてマージオを見上げる。わかっている、と無言で頷き、マージオは自身の指から金細工の指環を外した。

「これが反応している。マオが近くにいるのだ」

ライルの手を取りそれを握らせると、その上からギュッと両手で握った。

「これがあればマオに辿り着けるはずだ。あの子を護ってくれ」

マージオは跪くライルに向けて

「ゆけ」

と告げると、視線をライックに移した。ライルの後に続きライックも祭壇を離れる。祭壇のある空間を出るとライックが近付いてきた。

ライルはマージオとのやり取りをライックに伝えた。ライックは自身の副官を呼びライルの部下を呼ぶように指示して、ライルに向き直った。

「樹海の向こうが騒がしい。仕掛けてくるのは今晩だ。ネズミ共は(シュエット)の餌食だ」

蜘蛛(アレニエ)は護りを固めてもらわなければならない。神殿にも害虫が多いから餌には困らない。ライックは視線でニックヘルムを指して、ニヤリと笑った。

「蛇の道は蛇。かの国との交渉は済んでいる。後は馬鹿な夢に踊らせらた道化を始末するだけだ」

副官がライルの部下を連れて戻てきた。ライックはライルの肩に手を置き、頼んだぞ とひとこと告げて部下に指示を出し始めた。


マージオから託された指環は仄かに発光し熱を帯びていた。少しの躊躇いのあと、ライルはそれを指に嵌めた。すると指環の熱が自身の鼓動に伝わり、胸の奥から湧き上がる焦がれとなってライルの鼓動を早めた。マオ…、その名を口にするだけで、全身を熱が突き抜ける。あぁ、これがマオを感じるということか。

今まで気配としてぼんやりとしか感じることしかできなかったが、今ははっきりとわかる。

きっとこの指環がマオまで導いてくれる。

ライルは指環に触れて意識を集中した。根拠はないが、進むべき方向がわかる。マオが呼んでいる。


ライルが祭壇を離れていく姿を、真緒は覗き穴から見送った。見納めかもしれない。上手く止められなければ二人とも死んでしまうかもしれない。上手くいく保障は無いのだ。いや、上手くいっても私が死んじゃうかも。だって敵に殴り込みをかけるのだから、戦う術のない私は自分の身も守れない。ちょっとヒロインっぽいね、私。思考を明後日に飛ばして、せつない気持ちにケリをつけた。

「火をつけるとしたら、どこ?」

真緒はテリアスに質問した。

「祭壇を囲むように水路があるだろう、それに火がつけば逃げ道はない。祭壇にある火を倒せば、黒い油なら簡単に火が回るだろう」

そういわれて、穴から水路を確認する。確かに炎のカーテンを作られたら逃げ道はなさそうだ。阻止するためには黒い油を流される前か、最悪火をつけるのを止めるしかない。

「水路の引き込み口にいくぞ。油を流す前に止める」

テリアスの言葉に真緒も頷く。引き込み口に行くためには、祭壇の裏手に回り込む必要があった。再び水路に沿って歩き出した。


祭壇の裏手にある引き込み口に向かっていると 邪魔が入った。数人の人夫が座り込んでいる。人を待っているようだった。これでは通れない。仕方なく引き返し、隙間のような狭い横道を入った。胸元のペンダントが押し付けられ服の上からでも熱を帯びているのがわかる。さっきお父さんをみたときはこんなじゃなかったのにどうしたんだろう…。まるで指環と引き合わせたときのようだ。近くにお父さんがいるの?

隙間を抜けると人気のない狭い廊下だった。少し先はT字路のようだ。テリアスは足を止めることなく進んでゆく。真緒も遅れまいと必死に後を追った。


「来るな!」

突然のテリアスの声に真緒は足を止めた。同時に剣戟の音が響いた。一撃を何とか躱したテリアスが一歩後退する。真緒を背に護るように立ちはだかり、動きを止めた。

「…ライルか?」

驚きを含んだ声。自身のフードを外し、顔を晒した。その名前に反応したのは真緒だった。胸のペンダントは更に熱を帯びていた。テリアスの背から覗き見た。

驚いたライルの顔が目に飛び込んできた。

「マオ!」

ライルが嵌めている指環も更に熱を帯びていた。テリアスの背に庇われている姿が、ライルには捕らえられているようにみえた。再び剣を構え、殺気を出すライルにテリアスも短剣を構える。一瞬で場が張詰める。

「やめて!」

真緒はテリアスの前に躍り出た。両手を広げてテリアスの前に庇い立った。

「ライル止めて。この人は私を助けてくれたの」

お願い、剣を引いて。必死にお願いした。ライルは目の前の光景が信じられないようで、剣を納められずにいた。ライルと真緒の見つめあいが続く。ここで視線を外してはいけない。真緒は腹に力を入れて更に一歩ライルとの距離を詰めた。

「ライル、お願い。私を信じて」

真緒の言葉にライルも視線を外さず見つめ返した。

「わかった。それならマオ、こっちに来るんだ」

「離れたら斬り掛かるんでしょ!だからイヤ!」

真緒も引かなかった。ライルと真緒の見つめ合いは続いた。折れたのはライルだった。

剣を引くと鞘に収め、両手を広げてアピールしてきた。それをみてテリアスも短剣を鞘に収め、胸元へ戻した。緊張感はガッツリあるが、殺気は消えた。

真緒はふたつの刃物が鞘に収まったところで息を吐いた。今までを考えれば 仕方の無いことだけど、派手な兄弟喧嘩だ。


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