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61.攻防

医療棟のベッドは広い室内に10台かあり、カーテンで仕切られている。今は真緒を含めて3人がが使用しているが、間隔は空いているので気配が気になるほどではなかった。薬の効果なのか、真緒は 浅い眠りから深い眠りへと誘われてゆく。室内の灯りは落とされており、カーテンの向こうに微かな光が灯る程度だった。


夜も深まった頃、カーテンの中に人の気配を感じた。

昼間眠りすぎたのか、何かを感じたからか、真緒は目覚めてしまった。暗闇は必要以上に恐怖心を煽る。

(なんでこんな時に目が覚めちゃったの!)

何だかわからないけど嫌な予感がする。

こういうのってシックスセンスとかいうんだよね。

でも、テストの山は当たらなかったし、宝くじも当たらなかった。いや、宝くじは運か。まさか こういう時だけ当たっちゃうの?勘弁して!

寝たフリをしながら 焦る自分を何とか落ち着けようと 得意の現実逃避をするが 焼け石に水。気付いてしまった気配は立ち去ることなく真緒の背中側に近づいてきた。ここは反撃するべき?でも武器なんてないし、素手じゃ勝てそうにない。逃げる?どうやって?ベッドから落ちるとか。すぐ捕まりそう。高速回転で思考が廻る。結局、名案は浮かばなかった。

あのときはライルがいてくれたのに…!

馬車を襲撃された あのときがフラッシュバックする。

ライルが護ってくれた。

あの声、あの背中が私を護ってくたんだ。こんなところで死ねない!まだライルになにも伝えてない。

!!!

突然だった。

何かが口元を塞ぐ。無我夢中で頭を振り剥がそうと試みる。そんな抵抗も無意味だった。甘い香りが真緒の鼻腔を捕らえる。誘われるようにその香りを吸い━━真緒の意識は途切れた。


(ごめんね、マオ)

ルーシェは心の中で謝りながら、真緒の口元から手を外す。力なく横たわる真緒をそっと抱えると、カーテンの隙間から別の人物が現れた。入れ替わりでルーシェは抜けると、別のベッドへと真緒を寝かせた。

そのまま身を潜める。カーテンを通して部屋の入口に灯りがみえた。当直医師(あの男)が戻ってきたようだ。真緒のいたベッドを伺っているのがわかる。予定通りの展開にルーシェの口元も緩む。

さぁ仲間を連れておいで、メイド屋敷(向こう)は片付いたからね。

男は 窓際までゆくと、ランタンを外に向けて ゆっくりと左右に揺らす。暫くして ランタンの火を落とし、そのまま立ち去った。ルーシェはその背を見送った。

今は追わない。お前は蜘蛛(アレニエ)の糸に絡められたの、逃げることはできないのだから。



朝の眩しい光が窓から差し込み、室内に満ちている。

真緒も幸せに満たされていた。

私の髪を触っているのは 誰?

そっと触れるような優しい手が何度も 何度も髪をなぞり、その心地良さに酔いしれる。

「マオ…」

囁かれた自分の名前。それは聴きたかった声…

いるはずのないひと。

最後にライルの声が聴けて良かった。

ありがとう、神様。できたら 一目 会わせてください

真緒はゆっくり目を開ける。

白銀の髪は月明かりに合うと思っていたけど、陽の光にも反射して綺麗だわ。殿下も神々しいけど ライルも宗教画画の天使みたい。天使のお迎えなら天国にいけるのね。

「起きたか?」

ん?

「おはよう、マオ」

おはよう?

「大丈夫か?わかるか?」

わかりません。一体 どうなってるんでしょう。

「私…生きてます?」

真緒の問いかけに、ライルは目を細めておもむろに真緒の頬を抓った。

「っ!痛い!」

あまりの痛さに跳ね起きて頬をさする。勢いでライルを睨みつけると、それだけ元気なら大丈夫だな、とベッドに腰かけて真緒の肩を抱いた。

確実に生きてますね、はい。

寝起きドッキリにしては 心臓に悪すぎる。寝起きの顔をライルにだけは見られたくない。私にだって人並みに羞恥心くらいはあるのだ。

…あれは夢だったのだろうか?

前にも嗅いだあの甘い匂いだった…夢と思うには余りにリアルに蘇る。頭が重いし 身体も怠い。

「すぐに来れなくてすまない」

真緒の身体は抱き寄せられて、ライルと触れてるところが熱を帯びてゆく。真緒の鼓動は一気に速まり、息苦しく感じるほどだった。でも、それを心地良いと思った。安らぎが真緒を包む。どんな言葉よりも真緒を落ち着かせてくれた。

「何かあったのか?」

その問いに真緒は首を横に振った。そうか、ライルの返事もあっさりとしたものだった。ちょっと違和感。イザ以上に過保護なライルなのに?本当は何か知ってるの?疑念の目を向けるが、ライルはただ優しく微笑むだけで何も言ってくれなかった。 でも それは些細なこと。真緒にとってはライルの温もりを感じられる今が全てだった。

「もう行くよ」

ライルは名残惜しそうに真緒の身体を離すと、真緒の頬に手を当ててた。至近距離で見詰めるのはテロです!真緒は咄嗟に目を瞑った。額に柔らかい何かが触れて、吐息がかかる。それが唇だと気づいたときにはライルの姿は小さくなっていた。呆然とその背を見送って、またまた違和感を感じた。

あれ?ドアまで遠くない?

そっと起き出して、カーテンを全開にする。足の痛みも忘れて立ち尽くす。

昨日は2つ目のベッドにいたはず。なんで違うところに寝てるの?人の気配のない室内。先生もいないし、寝る前までは あと二人いたよね?昨日まで寝ていたはずのベッドへ視線を向ける。

「こらっ!起きちゃダメでしょ!」

ルーシェが勢いよく部屋へ入ってきた。その勢いで真緒に近づくと、そのままベッドへ連行された。傷が広がったらどうするの、喉乾いてない?あぁ、熱は下がったみたいね、ルーシェのお姉さんぶりは健在でテキバキと真緒のお世話を進めていく。

「ねぇ、私のベッド、あっちじゃなかった?」

真緒は2つ隣のベッドを指さした。

「寝ぼけてる?」

ルーシェは呆れ顔で答えた。そんな訳あるわけないでしょ、昨日からここよ。熱があったから勘違いしたんじゃないの?これだけ広いんだからどこで寝てたって一緒でしょ。笑い飛ばされ、相手にされない。

真緒の中に残るあの甘い香り。

確かに何かがあったんだ。ライルもルーシェも知っているんだ。知っていて隠している。

自分の周りで何かが起きている。言い知れぬ恐怖が真緒を襲う。無意識に自らの身体を抱きしめた。








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