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50.王都での居場所

王都に着いたその足で こじんまりとした店にやってきた。カントリー風の内装はマルシアの宿を思い出させてちょっと切なくなった。マルシアの宿よりもテーブル数も多く、昼は食堂、夜は酒場として営業しているようだ。昼を過ぎたこの時間は酒場を開けるまでの休み時間のようで、店内は人気がなかった。

ライルは迷いなく店内を進み、2階へ上がる。真緒はフロアで待つように言われた。

磨かれた窓に映る少女を見つめる。

イザが用意してくれたハニーブロンドのウィッグは背中の真ん中まであり、肩下が精々の真緒にとっては未知のロングヘアだった。編み上げのブーツにくるぶし丈のスカート。向こうの世界では制服以外はパンツにスニーカー、動きやすさ重視だったので女子全開のスタイルは気恥しい。見知らぬ少女と見つめあっているようで不思議な感覚だった。

外は春の陽に照らされて、行き交う人々の足取りも軽い。子供が路地で遊び、立ち話をする人たちの姿もみえる。騎士だろうか、帯剣した制服姿の男たちが通り過ぎるが、その姿は落ち着いていてこの街の治安が良いことが分かる。

(いろいろ片付いたら 街歩きしてみたいな)

そんな年頃の娘らしいことを考えていると、階段を降りる複数の足音が聞こえてきた。

「やぁ、アンタがマオかい?」

ライルと共に身体付きのがっしりとした壮年の男が眩しい笑顔でやってきた。うわっ!ライックに負けないナイスミドル!

短く刈られた金髪に盛り上がった筋肉。細マッチョな肢体はダビデ像みたいだ。美術の教科書でみたわ。あっ、もちろん裸ではないです、服きてますよ。

ワイルドなオジ・ダビデ…

真緒の失礼な妄想を知るわけもないオジ・ダビデは

「ダン、だ」

と自ら名乗り手を差し出した。真緒はその手を両手で握り返し名乗った。ダンの手は節が太く手掌全体が硬かった。この人も剣を振るうひとなんだろう。

「マオ、しばらくダンと過ごしてくれ。ここはライックの息がかかった者が出入りするから安心していい。ダンはこの店の経営者だ」

「2階の奥の部屋を使うといい、足りないものは言ってくれ」

よろしくな、ダンは人好きする笑顔を向けた。

「ここで働かせて貰えませんか?料理はできないけどフロアならお手伝いできると思います。よろしくお願いします」

真緒は頭を下げた。ライルは慌てた様子で真緒を止めたが、怯えて隠れて生活するよりも、自分にできることをしていたかった。ライルはイザ以上に過保護で、お小言も半端ない。エンドレスな小言から救ってくれたのはダンのひとことだった。

「まぁ、様子みながらできることをやってもらおうか。オレも助かるし、視界に入っていてくれた方が護りやすい」

ライルをウインクひとつで黙らせるとはダンさん、さすがです。ライルはウィッグは取るな、ひとりで出歩くな、男に話しかけられても無視しろだの細々注意事項を告げると、店を出ていった。

「あいつ、マオの親父みたいだな」

心配の仕方が半端ないな、とダンは苦笑いしていた。つられて真緒も苦笑いした。

キッチンの奥から何やら物音がした。真緒が身体を強ばらせると、ダンは真緒の肩にそっと手を置いて大丈夫だ、と教えてくれた。ダンに呼ばれて一人の女性がやってきた。

「ルーシェだ。オレの娘だ」

綺麗なうねりのある金髪を高く結った美人が、笑顔で真緒に抱きついた。美人の笑顔は迫力がある。

「マオね?よろしく、ルーシェよ」

真緒の両手を包み込みブンブンと振り回す。その手の硬さが真緒の手に伝わる。この人も剣を振るうのか…。お登り気分で街歩きを想像した自分のを恥じた。状況は何ひとつ変わったないのだ、気を引き締めなければ。真緒の表情が変わったのをルーシェは見逃さなかった。

「事情はきいてるわ、安心して。私たちが護るわ」

真緒は首を横に振る、違うんです、と。

「誰かを危険に晒して、私、なんのためにこの世界にいるのかなって…」

「あなたらしく生きるため、じゃないかな」

どんな状況下でも自分らしく生きようとすることが自分の存在を作るんだと思う。そして誰かのために何かができたら素敵よね。

ルーシェの言葉は魔法の言葉。真緒の気持ちを救ってくれる。私は誰かの助けになれるのだろうか。今は護られてばかりだけど、どこかで恩返しができたらいいなぁ、真緒はルーシェの言葉に力強く頷いた。






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