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43.突然の訪れ

春雷の鳴る夜だった。

少数の護衛が付いた騎馬が古城に駆け込んできた。

ヴィレッツは突然の来客に驚き、正体を知ってしばし言葉を失った。こんな夜更けに単騎で乗り込んできたのが国王マージオだったからである。

「陛下!どういうおつもりか」

少数の護衛だけで、夜の森を抜けてくるなど正気の沙汰ではない。御身に何かあったらどうするのか、ヴィレッツは言い募った。ヴィレッツはマージオを兄のように慕っていた。王位後継問題と関係なく、マージオが危険に晒されることは許し難いことだった。

マージオはヴィレッツの心配をよそに、宰相を出し抜いてここまでやってきた、なんでもない事だと聞く耳を持たなかった。

マージオとヴィレッツの間で真緒との内閲について話が持たれていた。 ニックヘルムはマージオにミクが既に死んでいることを伝えたのだ。ミクの気配といってもミクの娘の気配であり、マージオが会う必要は無い、とニックヘルムは取り合わなかった。


「ミクの娘に会いたいのだ」

マージオはミクの話を聴きたかった。その娘から少しでもミクを感じたかった。明日には王都へ戻らなければならない。ナルセル王子の成人の儀と共に行う王太子披露のため、諸外国からの要人を迎えなければならないのだ。ヴィレッツは真緒の部屋へ使いを出すと、真緒をどうするつもりなのか、マージオに問いかけた。

「私の子であるのなら、王都へ連れてゆく」

ミクにしてやれなかった分、娘を幸せにしたいのだとマージオは答えた。それは自身の子として公にするということ。ナルセル王子が王太子となっても、後継指名をしたマージオが執務を摂ることで、後継争いの抑止力になる。そこに自身の子であるとマオを披露したらどうなるか。マオを担ぎ出す者、抹殺を企む者、この混乱を利用しようとする者が現れ 再び混沌とした政治情勢になりかねない。

「マオを王都へ連れて行くのはおやめください。ナルセル王子の披露をするこのシーズンにマオの存在を知らしめるのは国政を乱すことになりかねません」

国政が乱れるだけではない。真緒も危険にさらされるのだ。そのことを強くアピールし、説得を試みる。マージオはヴィレッツを静かに見返した。その瞳は悲しみを湛え深い闇が支配していた。

「この国も復興し、発展させた。民は飢えることなく他国からの侵略の危険も低い。私は全てをなげうってこの国に尽くした。ミクが戻ってきてくれると思っていたからこの18年間耐えてこられた」

口元を歪め乾いた笑いを浮かべる。

「もう解放してくれないか。充分役目は果たした。ミクに永遠に逢えないのなら、せめて娘の中にミクを感じたいのだ」

その背中は小さくみえた。肩を落とし震わせる姿は王座のマージオとは別人だった。ヴィレッツは声が出なかった。

この心優しい叔父は、争いを嫌い絵を描くことが好きな物静かな人物だった。ヴィレッツが幼い頃から後継争いで王都は混沌としており、貴族の対立の溝は深くなるばかりだった。誰が味方か敵なのか、幼くとも後継争いの渦中に置かれていたヴィレッツは人が信じられず、自らの殻に閉じこもっていた。ヴィレッツの身に危険が及ぶようになると、マージオはヴィレッツに国外への遊学を勧め、送り出してくれた。こんな馬鹿らし争いの犠牲になる必要はないよ、と。

だからヴィレッツはマージオが国王となったとき、すぐさま帰国し、右腕として復興に尽力したのだった。

心優しい人は、心を殺してきたのだろう。

だからこそ、まだ なのだ。

まだ 倒れてはいけないのだ。

国王マージオは強い力を持って君臨しなければならないのだ。

再び混沌とした争いを繰り返さないために、諸外国につけ入る隙を与えないために。


想像以上に崩れているマージオを前に、ヴィレッツはどうしたものかと思案していた。

「この国がナルセル王子の元で安定するまでは陛下の存在が必要なのです。今はマオの存在は争いの火種にしかなり得ません。再びこの国に争いを招いて国民を飢えさせるのですか」

「…ミクに見せたくて、褒めてほしくて争いのない豊かな国をめざした」

自嘲の笑いを浮かべる。

「もう どうでもいい。ミクはいないんだ…」

ミクを永遠に失った悲しみの深さを思い知った。




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