40.自分を護るもの
髪を撫でる感触の気持ち良さに、ゆっくりと意識が浮上する。瞼が重い。身体も熱を帯びているようで、指を動かすのも酷くだるかった。
「…悪い、起こしちまったか?」
低めボイスが心地良い。いつまでも聴いていたい。この声はナイスミドルのライックだ。真緒の中ではお父さんポジ認定である。
ゆっくり横に首を振ると、気力で目を開けた。
「ライックさん 助けてくれてありがとうございます」
二度目ですね、真緒は精一杯笑顔を作った。顔を動かしただけで、全身に電気が走る。鋭く強い痛みが背中から全身に拡がり 息が止まる。乱れた呼吸を整えようと深呼吸を試みて断念した。背中に鉄板が入っているように動かない。私の身体、どうしちゃったの?
「痛むか?まだ動かない方がいい。背中に傷があるんだ」
ライックは真緒の頭を優しく撫でると両方の眉を下げて申し訳なさそうな顔をした。背中に傷?あぁ、ライルを突き飛ばしてかばったときか…心当たり アリ。なんてことしたんだろ、下手すれば自分が死んでたわ…後悔先に立たず。
いや、後悔はしてないか。ライルが殺される!って思ったら身体が動いていた。自分がそんなことをするとは驚きだ。恋愛 恐るべし。あれ、ライルは?無事なの?
「あいつは生きてるぞ。別の部屋で休ませてる」
真緒の視線が室内を探しているのに気づいて、苦笑しながらライックは教えてくれた。そんな顔しなくても ライルのこと亡き者にしてませんよ。心の中でツッコミ入れている自分の能天気さに呆れるが、これが私だもの、うん。
殺されかけて、こんな怪我して。
怯えて泣き叫ぶくらいするんだろうか。思い出したら恐怖で身体が震えてくる。人が人を殺し合う、これがこの世界のリアルなんだ。映画やドラマの世界では決してない。異世界だとどこか浮かれていた自分を殴りたくなる。この痛みも現実のもの。私は 今 この世界を生きている。
「…痛むか…?」
黙り込んだ私に心配そうに声をかけてくれる この人もライルもイザも…私が狙われるたびに己の生命を危険に晒すに違いない。
私は何ができるのだろう…
他人の生命を危険に晒して、それに応える何かができるのだろうか…
自分の無力さに涙が溢れてくる。頬に触れる温かさが真緒を包む。ライックの手は温かい。ライック、反則!
私は 私ができることをしよう。
自分を護るのは剣だけじゃない筈だ。王様に会おう。
王様の子供ではない とハッキリすればいいんだ。
自分のやることがみえてきた。
真緒の心に光が灯る。眼差しにも真緒の心が映っているのだろう。ライックが少し驚いたような、歓びを得たような表情をした。
「お前に護衛をつける。いや、お前たちに、か」
ライックは真緒に含みのある笑みをみせた。
「イザを護衛につける。あれでもライックは高貴な貴族のお坊ちゃまだからな」
あぁ、最強の護衛ですね、自分で言ってましたよ。真緒もニヤリと返した。
「イザは俺の一番弟子だ。腕前は保証するぞ」
でも、弟子は師匠を敬ってないよですけどね。心の副音声が絶好調なのは、気遣ってくれるライックのお陰だ。優しい時間をくれたことに感謝した。




