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38.黒幕

林の奥、道から逸れた木立の影にそれはあった。

飾りの無い質素な馬車が横倒しになっている。繋がれていた馬なのか、少し離れたところで馬番が世話をしている姿が目に入る。

馬車の横転事故。そう報告があった現場に部下と立ち会っているが、イザは気持ち悪さを覚えていた。

事故を起こした馬車は無人だったという。

蹴り破られたかのような扉、微かに残る鉄の匂いが争いがあったことを示しているのに、襲撃の痕跡が何も出てこないのである。

御者は見慣れない男だった。王都に近い街から森を越えた先の街へ商人を迎えに行くところだという。話を聞く限りおかしな所はない。馬の制御ミスで横転したんだと御者は言う。結論を操作されているようでイザに強い違和感を抱かせた。

部下に引き続き捜査をするよう指示を出し、その違和感を振り払うように、ガリガリと頭をかいた。


騎乗すると、林の道を外れて進む。

見覚えのある背中を追って馬を進めていく。距離を詰めることなく二者の追走は続いたが、ようやく前の馬が歩みを止めた。

イザはそのまま馬を並べた。

「イザ、付き合え」

ライックの声は真剣だった。この男にしては珍しい。

あの現場の違和感の理由をこの男は知っているのだ。

無言で頷き、ライックに付き従った。



状況はイザの想像以上に酷いものだった。

古城に連れてこられたイザが目にしたのは、痛みに苦しむライルと眠り続ける真緒だった。

真緒を乗せた馬車はあの現場で襲撃された。

ライルは満身創痍で真緒を護っのだ。イザはライルに心から感謝し、同時にこのこの状況を作った犯人に強い怒りを覚えた。

「襲ったのは(シュエット)だ」

ライックは淡々と告げた。イザもシュエットについて知っている。宰相直轄の諜報組織だ。シュエットが動いたということは、宰相が真緒の抹殺を指示したということだ。イザは悔しさに拳を握り締めた。

「この襲撃の黒幕はテリアスだ」

ライックの言葉にイザは耳を疑った。ライックを鋭く睨むと、説明を求めた。

この春 ナルセル王子は成人の儀を迎え 王太子となる。譲位はまだ先だが 宰相もまた後継であるテリアスを右腕とし、貴族社会の駆け引き、政治手腕を鍛えていた。その中でシュエットの一部隊をテリアスに任せているのだ。ダークな部分を掌握できてこその後継である。

「…これでも(シュエット)にはツテがあるんだ。テリアスの指示で動いた部隊がある。宰相がその動きを止めようとしたが時すでに遅く、殿下のアレニエと交戦になった」

ライックは口端を歪めた。

「お前が宰相を恨んでいるのは知っている。だが、それに囚われて物事の本質を見失うな」

真剣な目でイザを見据える。

「ミクを失い陛下の心は儚く脆い薄氷の上にある。 ナルセル王子にはまだ求心力が足りない、陛下の存在が必要なんだ。陛下が倒れれば、この国は再び争いが起こる。ミクの気配だけでこれだけ揺らぐ 陛下を支えられるのはマオだ。それは 宰相が一番わかっている筈だ」

マージオがミクの気配を感じ、蜘蛛(アレニエ)を動かして真実を探りだした以上、真緒を殺すことは得策ではない。ニックヘルムがこのリスクをわからない訳がない。真緒の存在を利用されないように隠したと考える方が正しいと思えた。

「ヴィレッツ殿下が国王との内閲を整えてくださる。殿下もこの国の安定を願っておられる」

イザ 、力を貸してほしい。ライックはイザに手を差し出し、イザはその手をとった。









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