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37.ヴィレッツ

ライルの部屋を出て、ライックはある部屋へ向かう。

一際豪華な扉の前で立ち止まると、衛兵に取り次ぎを頼んだ。衛兵に案内され室内へと進む。

部屋の主が窓際に立つ姿は絵画のようだった。ブロンドの髪はすっきりと纏められ、黒を基調とした詰襟の上着は身体のラインに沿っており、背の高い姿を一層優雅に魅せた。

「殿下、この度はありがとうございました」

ヴィレッツがライックの礼に答え、軽く手を挙げたのを確認し、ライックは言葉を発した。

「よい。もう少し早く手を打ちたかったが、後手に回ってあの娘を危険に晒してしまった」

ヴィレッツはライックに座るように指示し、自身もその対面に腰掛けた。

ライックはライルの状態を報告する。

「宰相の末の息子であったな。腕が立つ。よくあれだけの手練を相手に耐えたものだ」

カップに口をつけ香りを楽しむ姿さえも洗練されており、つい見入ってしまった。ヴィレッツと視線が合い、慌ててライックは逸らした。

「師団長、貴方が手解きをしたときいている」

滅相もありません、ライックは柄にもなく身を固くして否定した。ヴィレッツはその様子を面白いものをみるように眺めていたが、表情を入れ替えると本題へ入った。


ライックが現場に駆けつけたとき、膝をつき崩れかかっていたライルが目に入った。背中に嫌な汗が流れた。慌てて駆け寄り助け起こすと、傷は多いがしっかりとした息遣いに安堵する。彼の背に庇われている真緒に目を向ける。

「マオ?」

ピクリとも動かない真緒の背は赤く染っていた。ライックが背に触れると生温かいものが滴り、身体の下には血溜まりとなっていた。無心で傷に布を当て圧迫する。助かってくれ…!祈る気持ちで抱きかかえる。

「馬車へ」

いつの間にか数人の男たちに囲まれていた。敵意は感じない。男たちに従い馬車へと乗り込んだ。


「急所は外れている。出血は多いが問題はないときいている」

いずれ意識も戻るだろう、ヴィレッツは真緒の状態をそう説明した。ライックは胸を撫で下ろす。自身の胸で泣いていた真緒の頼りない背中を思い出し、過酷な状況に置かれた娘を不憫に思った。

「…ところで」

ライックの思考を断ち切るかのようにヴィレッツは切り出した。

「貴方はやつら(刺客)に覚えがあるのではないか」

「…(シュエット)…。宰相は良い駒を持っているな」

ヴィレッツの表情から微笑みが消え、ライックを鋭く見据えていた。

「かつて貴方もそう呼ばれていた」

(シュエット)】━━━━アレニエが王族固有の諜報組織であるのに対し、私兵的な意味合いが強く、宰相家に忠誠を誓う諜報組織である。王位争奪の混乱の中でマージオの盾と呼ばれ、現在は国内の情報網を網羅し、ダークサイドを担っているといわれている。アレニエも一目置く組織である。

ライックの表情が動かないことにヴィレッツは驚くことは無かった。目を細め決して視線を逸らさない。ヴィレッツはライックを見極めようとしているようだった。ライックもそんなヴィレッツに応えるように視線を返した。会話のないやり取りが二人の間で交わされる。

「━━私に何を望む?」

ヴィレッツは口火を切った。

「殿下の立ち位置は何処にあるのか、そのお心を明かして頂けないでしょうか」

ライックは表情を消していた。これが(シュエット)を率いた男か、ヴィレッツはライックのオーラに気押されそうになるのを堪え、腹に力を入れて見据えた。

「私は、師団長として国王に忠誠を誓い仕える者。この国が良き方向に向かうことだけを願っています」

殿下、貴方は混乱を良しとするのか、その視線は語っていた。

「争いは望まない。私はナルセル王子国の後見に立つ」

その言葉にライックは騎士の礼で応えた。

「あのとき 私は12歳で国外に逃げることしかできなかった。今は違う。王位争いで国が荒れることは断じてさせない」

「マオは国王の娘だ」

ヴィレッツはライックの肩に手を置いた。

「争いに利用される前に匿うつもりだった。宰相の動きが予想より早く過激であったことが誤算であった」

娘ひとりにシュエットを使うとはな、最後は呟きだった。ライックに再び座るよう促し、ヴィレッツは続けた。

「陛下はミクの意志を頑なに護ることで、ミクを捨てた自分を戒めてらした。そんな陛下は生き急いでいるようで儚く、危うい。ナルセル王子はまだ国をまとめる力を持たない。陛下の存在はまだ必要なのだ。マオが━━ミクの娘が陛下の希望となるのではないか、そう考えている」

ライックの口元に笑みが浮かんでいた。ライックの求める答えが得られたのであるうか、ヴィレッツは静かに目の前の男の言葉を待った。

「殿下のお心のままに。私は、私にしかできないことを致します」

ライックは立ち上がると退室の許可を乞う。


あの男の信頼に値したのだろうか、ヴィレッツは扉に消えた姿に呟いた。





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