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33.真緒の意思

真緒が着替え終わるのをドアの外で待つ。

平気そうにしていたが、連れ去られ 一人で逃げ出してきて怖かっただろう。ミクの世界は争いのない平和な国だという。マオはそこで育ったのだ。ライックがいなければどうなっていたか…。

そこまで思考を巡らせたところで、真緒が出てきた。

パステルブルーのワンピースがよく似合う。ハニーブロンドのウィッグが気になるのかいじっている仕草は年頃の娘にみえて可愛いらしかった。

「…何か変じゃない?」

見慣れない自分の姿が恥ずかしいのか、スカートをいじってみたり、ウィッグをいじってみたり落ち着かない。

「馬子にも衣装だな。悪くないぞ」

イザなりの褒め言葉に真緒も顔を赤らめながらも、そうかな、とはにかんだ。なんだ、その反応!イザの顔まで赤らみ、お互い気恥ずかしい微妙な空気が漂った。

「ほら、いくぞ」

イザは真緒に背を向け、サッサと歩き出した。


自警団の建物はベルタの街の大門の近くにある。騎士団が森の邸宅に常駐し王家の庭を警護しているのに対し、自警団はベルタの街の治安維持を担っている。自警団はいくつかの団に別れており、イザは自警団の副団長の一人だ。通りすがりの騎士がイザに挨拶を交わす。若い騎士からの憧れの眼差しが向けられる。意外と部下からの信頼があるのね、とちょっと失礼なことを考えたのは内緒だ。

市場はさほど遠くない所にあった。

筋肉痛で歩く速度が上がらない真緒を気遣ってか、並んで合わせてくれる。ちょっと見直したわ、真緒はイザの心遣いに感謝しながら、せっかくの市場を楽しむことにした。昼近いこともあって、行き交う人ものんびりとしている。露店には、春の訪れを感じさせる色鮮やかな花々が並び、パンや野菜などが豊富に揃っている。肉を焼く匂いが食欲をかき立てる。石畳の路では子供たちが駆け回り、物語の中ではないリアルな人々の営みがそこにはあった。お母さんもこの風景をみたのかな、物語の欠片を感じ取って真緒の心は弾んだ。

「まずはメシだ」

そう言ってイザは店に入った。馴染みの店らしく、座るとすぐにワンプレートが運ばれてきた。スープとパンが別添えであり、かなりのボリュームだ。空腹状態の真緒は夢中で肉を頬張った。

「あの男とはどこで知り合ったんだ?」

イザは食事の手をとめずに切り出した。あの男ってライルのこと?やだ イザ、お父さんみたい、真緒は誤魔化してみたが、その手には乗ってくれなかった。真顔で見つめられて、真緒は観念した。

渡りの樹で再会したこと、生い立ちについてきかれたことなどを話した。

「昨日、ライックさんが助けてくれたときに、ライルが来てくれて ここまで連れてきてくれたの」

食後のお茶を飲みながら、昨日の経緯を話していく。そして、攫われた理由も。

イザの表情は変わらなかった。私の出自について知っていたのだろうか。それを問うと、確証は無いけどな、と呟いた。

「これからどうするか、だ。真緒はどうしたい?」

父親かどうか確認するにしても相手は国王だ。そう簡単には会えないだろう。かといって、このまま逃げ続けて怯える日々は嫌だ。

「ハッキリさせたい。王様の娘じゃない、ってわかれば狙われ事もないし」

方法は思いつかなくても、白黒つけたかった。イザは真緒の返答に黙って肯くと、頭をガシガシと搔いた。

「ライルなら伝手があるかもしれないな」

頼るのは不本意だと顔に書いてある。なんともわかり易い人だ。真緒はイザがの姿が面白くてクスッと笑った。

「街を案内しようか」

立ち上がったイザに続き店を出た。春の風が真緒のワンピースの裾をさらう。後ろでまとめた髪が揺れる。


真緒は最強の護衛と共にベルタの街を楽しんだのだった。





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