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32.真緒の気持ち

『ねぇ、お母さん。王子様はなんで本当のお姫様と結婚したの?』

幼い私が母の膝で甘えた声を出す。

『王子様は王様になって国を護ったからよ。戦争をしないために お姫様と力を合わせたのよ』

優しい手が私の髪を何度も撫でる。その気持ちよさに目を細め、母に寄り掛かる。

『王子様は幸せになったのかな?』

『そうね、きっと幸せになったわ』

『お母さんは 幸せになった?』

母は私を抱き締めてくれた。

『もちろんよ。あなたという幸せを授かったのだから。とっても幸せよ』

見上げた母の微笑みは、優しさと幸せが溢れていた。

それを見て、私も幸せに包まれる。


ゆっくり意識が浮上してくる。

小さい頃の夢、久しぶりに見たな…お母さん幸せそうに笑っていた。それだけのことなのに真緒の心を明るくしてくれる。伸びをして、身体を起こす。

ん?ここどこでしょう?最近 このセリフ、多いな…

真緒は簡素な室内を見回す。遠くで剣が交わる音や男たちの掛け声がする。見慣れない部屋。そして全身の筋肉痛。痛む腕を擦りながら思い返してみる。

あの館から脱走して、盗賊から逃げて、ライルと馬に乗って、ここに来た。馬で揺られながら寄り添った事実は置いておく。意識したら悶え死にしそう。


そんなことより考えなくてはいけないことがある。

━━国王の娘かもしれない━━

ライルの言葉が甦る。

これが 私が誘拐されたり、命を狙われる理由。

日本人の父親説しか頭になかった。公にできない関係の人との間に生まれたんだと思っていた。

言葉通りの『王子様』が父親かもって…。正直 実感が湧かない。これからどうしたいいのか。

この世界にいても命を狙われ続けるってことよね…でも、帰り方なんて分からない。

それなら白黒つけたらいいんじゃない?王様の娘じゃない、とハッキリすれば堂々とできる。

そもそも悩むのは苦手なのだ。行動あるのみ!真緒はグッと拳を握った。胸元のペンダントに手が触れて 揺れる。

実は気になっていることがある。少し前からこのペンダントが仄かに熱を帯びているのだ。これを見ていると 切ない気持ちになる。母が大切にしていたペンダント。これも父親に繋がっているのだろうか。雫型の小振りのベンダントヘッドは金細工でできており、雫の先に水晶のような透明な石がはめられている。その石が仄かに熱を帯びているのだ。その熱が真緒を落ち着かない気持ちにさせる。

あの絵はライルが持っている。埋めるはずだったが、これも果たせてない。母を大事にしていないような気持ちになり、真緒は落ち込んだ。早く願いを叶えよう、改めて決意する。自分がやることがみえてくれば、気持ちに余裕ができてくる。なんだかお腹空いてきた。現金な自分に笑えた。


控えめなノックが聞こえた。

「起きているか?イザだ」

慌ててドアを開けると、垂れ目の愛嬌のある男が立っていた。すぅっと滑るように入ってくると、真緒を抱き締めた。

「マオ、無事で良かった」

ハグ に免疫のない真緒は、されるたびにドキドキしてしまう。今回は本当に心配をかけた その自覚があるので、大人しくされるがままでいた。反応が無いことが意外だったのか、真面目な顔でイザは 大丈夫なのか?ときいてきた。イザが本当に心配してくれていたのが伝わってきて、素直に言葉が出た。

「心配かけてごめんなさい」

熱でもあるのか?真緒の額に手を当てるイザに、なんだか苛立ちを覚えた。

「人が真面目に謝ってるのに!」

イザの手を乱暴に振り払い、真緒が怒る。

「やっと、いつものマオだな」

イザは嬉しそうに声をたてて笑った。その笑顔につられて真緒も笑った。戻ってきたんだ、と実感できた。

「メシでも食おう。話しはそれからだ」

イザは着替えとハニーブロンドのカツラを真緒に渡した。

「木を隠すなら森の中、だ。街へいくぞ。最強の護衛もいるしな」

親指を立て自身に向けてウィンクした。確かに最強の護衛だわ。イザは外で待っている、と言ってドアの外へ向かった。真緒は胸の内が熱くなるのを感じ、滲んだ涙かこぼれないように上を見上げた。

ありがとう、心の中でもう一度お礼をいうと着替えを始めた。






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