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314/318

314.暗転

半年以上に渡り、休筆しましたことを深くお詫び致します。

私にとってこの作品は、思入れの深いものです。

時間が掛かっても完結を迎えたいと思っています。


お読みいただける皆様に 楽しんでいただけるように

今後も努めていきます。

シーラの身体に回したライルの腕は 形骸的に 添えているだけ。

胸に囲う小柄な身体は 馬の揺れに合わせ重心が保たれ、その質量をライルが感じることは殆ど無い。

己でバランスを取り騎乗しているシーラに ライルの支えは無用のものだが、真緒だと思わせる為には必要なことだった。


真緒の代わりを務めるシーラの手にはダガーナイフが光る。

潜むような息遣いが 周囲への警戒を窺わせた。

幼くとも 訓練された(シュエット)なのだと 納得する。

同時に 真緒がこの娘に向ける憐憫な瞳が脳裏を掠めた。

少女を身代わりにするのかと 、その瞳がライルを責めている。


(…… だが、必要なことだ)


ライルはかぶりを振り、胸の奥底に生まれた淀みを振り払うように 背後に意識を向けた。



枯れた木立の合間を縫って数騎で けもの道を駆ける。

木立に遮られながら見る後方に、思惑通りの馬群を確認し、ライルは口の端を上げた。


奴らは騙されてくれたか …


まだ安心はできないが、第一段階としては 多数の騎馬が追走してきた事実を考えれば 上出来だろう。


共に駆けていた味方の騎馬が、樹林の死角を利用して けもの道から逸れてゆく。

追われ、孤立してゆく様を作り出してゆくのだ。


それを悟らせないために、自身の速度を落としてわざと追撃者との距離を縮めた。


山神の者たちにとっては、この険しい地形すら庭と同じだ。この先の峡谷に誘い込み、挟撃するための包囲網は 彼らに任せておけば 良い。


己がすることは、目的の地まで より多くの追撃者たちを煽動すること。


目的とする場所はまだ先だ。

もう一度 追撃者を確認すると、手綱を握り直し馬速を上げる。

加速の風を受け、胸元に触れたシーラの背から鋭さを増して放つ 強い緊張に ライルは違和感を覚えた。


だが、思い馳せたのは一瞬のこと。


(シュエット)とはいえ、まだ少女だ。

この状況に、強い緊張を感じても仕方ないことだ。

そう 自身に理解させる。


ライルの意識は 想定より多い追撃者の存在へと向けられた。



視界の先は 立ち込める靄と樹林に遮られている。

目的の地までの地の利は頭に入っているが、ライルの心は次第に騒めきだっていった。

想定以上の追撃だからなのか。

胸の内に湧き上がるものの正体に 苛まれる。


想定外のことが 起きている。

それは紛うことなき事実だった。



「ライル様、これ以上は難しいかと」

シーラの低い声に現に引き戻され、現実と向き合う。

作戦を変更し 味方の離脱は中止していたが、既に後背では 剣戟の音が響いていた。

左右から併走するように増えてゆく馬群のさまに、ライルは峡谷への誘い込みではなく、この場で迎撃する覚悟を決めた。

峡谷にはまだ距離があるが、伏せている山神の者たちがこちらに向かってくれれば、挟撃できる。

多数の敵でも、地理的有利と山神の者たちの能力があれば、勝機はこちらにある筈だ。

手を挙げ指示を出せば、それに応えた部下が速度を上げて駆け抜けてゆく。その姿を視界の端で見送りながら、迎え撃つための算段に思考が移る。


闘いへの算段を脳内に巡らせていたライルは、シーラの突然の行動に遅れを取り、止めることかできなかった。

シーラは近づいてきた騎馬へと ひらり と身を移したのだ。

それと同時にライルの馬の臀を強く鞭打つ。

突然のことにライルは手網を引くが、それに抗うように馬が駆け出した。


「ライル様、離脱を!」

馬の勢いを止めようと手綱を引くライルの腕が強い力で制される。まだ追撃の影のない斜め前方へと馬首を向けさせ、馬の臀に更に鞭打つのは、ライックの部下、馬車襲撃の際、森へと誘導した男だ。


「後は我々にお任せを」


辺りの音にかき消されないのが不思議な程の声色なのに、その言葉は、『諾』以外の答えを許さない。


だが、敵前逃亡のような状況で 部下を残して離脱など、ライルには到底納得できるものでは無かった。

抗うように馬首を返そうとするライルを更に強い力で制しながら、その男はライルに鋭い視線を向けた。


「この状況も想定のひとつ、我々は充分に備えております。

シーラも(シュエット)の一員、己の役目は心得ております。統べる者が手駒を気にする必要はありません」


ライルの手綱を器用に操りながら 己の馬を駆るこの男は、淡々と告げると、すらり と己の剣を抜いた。

ライルは男の力に抗うのを止め、頷いた。


「━━━━ ここを抜けます」

ライルの手網から手を離す。そして、並走していた 馬体を離すと ライルの前へと出た。

茂る木立の合間に見え隠れする群像に向けて馬足を速めていく。


そうだ。

己が果たすことは、引き返すことではない。

目前の襲撃者を葬ること。

決して 人質となることでも、無駄に生命を失うことではない


ライルは前に出た男の背を見つめた。

ライックは 何を想定していたのだろうか…


ライルは、己の浅慮さを、格の違いを見せつけられたようで 、それを意識すれば胸に苦味が広がってゆく。


気づけば、ライルを囲むように数名の(シュエット)による紡錘陣形が完成されており、臨戦態勢が取られていた。


━━━━━貴方は、『統べる者』であって『護られる者』ではないでしょう?


振り返った男は、口の端を歪ませ視線で挑発してきた。

その仕草はこの男の上官を彷彿させた。

流石ライックの手の者だな、そんな所まで似ている。



統べる者の力を 闘いで示せ


そう言いたいのか?


自然とライルの口角もあがった。


━━━━━━━ 愚問だ


ライルは己の剣を抜き、構えることでその問に応えた。































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