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31.護りの約束

森の邸宅に到着して3日経つが、至急の政務や来客で身体があかない。何のためにここに来たのか、本来の目的が二の次になっている現状に苛立ちを隠せない。未久の捜索の報告を急がせたが、宰相の報告は判を押したようだ。

『ミクはみつからない。捜索は継続している』

国王マージオは宰相に意図的なものを感じていた。ミクの気配は確かにある。

この森にきて、より強く感じている。

左手人差し指の指環に触れると、仄かに熱を帯びる。

感じる、ミクの気配。

飾りのない金細工の指環だが、指輪の裏側に砕けた水晶が埋め込まれている。それが仄かに熱を帯びるのだ。


ニックヘルム(宰相)は 何を隠している…?


ニックヘルムとは青年期を共に過ごし、親友であり唯一の腹心だ。王位継承で兄達が争う中、常に盾となり我が身を守ってくれた。国王として荒れた国を再建するうちに 身も心も疲れ果て、酒に溺れ、責務に背を向けそうになったときに、静養を強行してくれたのは彼だ。あれがなかったら、今の王国の復興と国王としての自分は無い。

あの静養がなかったら ミクに出会うこともなかった。

私の唯一に。

精霊の化身かと思った。湖畔に立つミクは美しい黒髪を風に揺らして、黒曜の瞳でみつめ、微笑んでくれる。

渡り人の彼女の話は尽きず、特に彼女の住んでいた世界の話は興味深かった。身分差のない、争いのない国で育った彼女。この国が争いの中にあったことを話すと、可愛いがっている13歳になる子が戦いに行く姿をみたくない、命のやり取りをするなんて嫌だ、と泣いた。ミクの国ではないが、長い戦いの中で、人々が飢え、住む場所を奪われているという。親を無くす子どもたちがいたたまれない。戦争は絶対にダメ!

ミクが何度も口にした言葉だ。

国王の身分を明かしたとき、ミクに誓った。

この国では、二度と争いを起こさせない。

戦いで民が飢えることも、子供が親を失うこともない。子供たちを戦争の道具にさせない。

ミクへの誓いが、国王として国を司る柱となった。

ミクとの逢瀬が心の拠り所だった。

王都から何度も馬で駆け、彼女に逢いに来た。いつでも優しい微笑みをたたえて待っていてくれた。


あの冬、この国へ侵攻する他国の情報がもたらされた。ニックヘルムは同盟のために、隣国との婚姻を進言してきた。もうミクとは会うな、と。

荒れた国内はまだ復興途中で、侵攻されたら一溜りもない。王として懸命な判断を。ニックヘルムの言うことは正論だ。同盟を結び、国を護るのが国王の務めだ。

自分の気持ちをコントロールできないまま、馬で駆けミクの元へ向かった。ミクを失いたくない。

ミクは誰にも渡さない。私のもの━━━━


お互いの熱を分け合い、夜を駆けた

ミクと過ごした 最初で 最後の 夜が終わりを告げる


明け方に迎えと共に王都へ戻った。ニックヘルムを説得するために。

隣国の姫との婚姻は引き返せないところまできていた。この国を護る、その責務を果たす覚悟を決めなければならなかった。

ミクのことは任せて欲しい、これは親友としてだ。ニックヘルムは私の手を握り、隣国の姫との婚姻を結ぶよう迫った。彼への説得は叶わなかった。

私は姫の輿入れの前にもう一度だけミクに会うことを条件に、決意を固めた。

この国の王として この国を護る━━━━


自分の口から、伝えたかった。

隣国の姫を娶ることを。ミクを迎えられないことを。

ミクは全て知っていた。

その夜、ミクは私の元を訪れた。魂の存在として。

渡りの樹に集う精霊の気配が、ミクを包んでいた。

「戦争になれば、イザは人を殺しに行く。私は祈ることしかできない。でも、あなたは違う。マージオ、あなたはこの国の王様。戦争を避けることができるはず。お願い、イザが人を殺しにいかなくて済むように、飢える人々がでないように。平和で豊かな国になるように、私はずっと祈ってる」

「さようなら、マージオ。私の王子様」

指環からミクの気配が 消えた。

私はミクを失ったのだ。


ミクが命を絶った、ニックヘルムはそう報告してきた。私はそれを黙って聞いた。ミクは渡りの樹に守られていた。きっと ミクの世界へ帰ったんだろう。本当にこの国が平和で豊かな国になったとき、還ってくる筈だ。

また逢うそのときまで 誓を守ろう。

この国と 民を護る約束を。









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