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298.拐かしの痕跡

マキシナスの元へ向かったイザは、見張りの騎士から聞いた紋章入の木箱について問いただした。


「あぁ、それはユラドラのとある貴族への荷ですな」

そう返答した マキシナスも思案顔だ。

何十年と 取引のあるその貴族は、政変に関係するほどの権力も、欲も持たない人物。そんな人物が、真緒の拐かしに関与するとは考えにくい。確かその荷の中身は、孫の身の回りのものであったはずだ。


「…恐らく 渡りの姫 本人の意思でしょうな」

マキシナスが導いた結論に、イザも異論はない。

その荷の所在について尋ねれば、イザと入れ違いで退出した男が 戻ってきて、マキシナスに告げた。

「ユラドラ行きの荷馬車は既に出発していました。検品は荷積みの元締めがおこなっていましたが、その紋章のある荷は 見ていないと言っています」

「何故だ?その荷は 今日載せる筈だ」

途端にマキシナスの表情が険しいものとなる。それに反応して、報告する男の顔色も冴えなかった。

「……それが 別日に持ち越しになった と言われたそうです」

未払いなどの理由で、そういったことがあるのは常だ。元締めも よくある事だ、と疑わなかったようだ。虚偽を告げた男の捜索と紋章の木箱を大至急探すように指示をだし、マキシナスはイザへ向き直り頭を下げた。

「こちらの落ち度だ。妙な奴らが紛れ込んでるようです」

私のテリトリーで 蠢く害虫は駆除せねばなりませんな。愛嬌のある笑みが消え、剣呑な雰囲気を纏い、放つオーラに怒気が溢れていた。

小机をリズミカルに指で弾く。

何気なく聞いていたイザにも それがある法則を持っていることに直ぐに気付いた。

モールス信号を思わせるそれは 暗部が使う 通信手段だ。イザ自身が使える訳では無いが、知識として知っていた。

天井裏の気配が動いた。

「こんな商売をしていれば、ね」

昔の伝手が たまには役立つものです。(ライック)もすぐ動くでしょう。

イザの視線で それを悟ったのだと気づいたマキシナスは、その剣呑な雰囲気を消して、愛嬌のある笑みを浮かべるのだった。


「国境の検問は?」

「恐らく問題なく 通過できるでしょう」

書類や荷は 本物ですから。

明らかに何者かの意思が働いている現状では、邸内に真緒がいるとは考えにくい。どこかの荷馬車に紛れ込ませた と考えるのが妥当だろう。国境を越えられては、自警団の団長の立場では手出しができない。

それに、ヴィレッツと女狐の逃避行に備えなければならない。自分が馬を駆って追うわけにもいかないのだ。自由の効かない己の立場に、苛立ち 唇を噛み締めた。


マキシナスと別れ、部下を呼び寄せると、木箱の捜索と併せ、他に出発出発た荷馬車の捜索を指示する。

その足で厩舎へ向かい馬を借り受け、騎乗の人となった。


国境を越えてとなれば 彼ら(山神の使い)の力を借りるしかない ━━━━━━


イザは手網を握りしめ、夜闇が満たす街へと駆け出していった。



その報告が入ったのは、街が朝の賑わいを見せ始めた頃だった。

ユラドラに潜む影からもたらされたのは、渓谷に打ち捨てられた御者の居ない 荷馬車だった。

身なりの良い男は背後から一刀浴びて絶命しており、荷馬車の周辺からは 数人の人夫が変わり果てた姿で見つかった。

一見、盗賊に襲われたかのように見えるが、どの切り口も鮮やかで、荒らされた荷を照会してみれば盗まれたものはなかった。襲われた場所が 通常のルートから外れているが、追われて逃げ込むような場所でもないことから 計画的なものだろうと結論がなされた。


そして トラサーズ商会でも。

火の消えた焚き火の脇に息絶えた人夫が二人。

燻りもない熱のない焚き火は、立ち消えてからかなりの時間が経っている。深酒をし、眠りに落ちて凍死したのだろう。

既に硬直の始まっている身体を仰向けに返す。見張りの騎士に顔通しすれば、昨夜の木箱を持ち出した男と酷似している と返ってきた。身体を動かしたからか酒の臭いが鼻をかすめる。不快感に眉間に皺を寄せ 転がる酒瓶に手を伸ばせば、検視をしていた部下が耳打ちしてきた。

「何か酒に混ざっています。詳しくは調べないと分かりませんが、睡眠薬の類いと思われます」

無言で頷き、詳しく調べるように指示する。視界の端に、駆け寄ってくる部下を捉え、そちらに向き直り、待ち構えた。

「団長! 倉庫裏の林に 新たに二名!」

骸が 増えたか…。

視線で報告の続きを促す。

「ユラドラに向かう荷馬車に乗るはずだった人夫だそうです、絞殺です」

だから なんなんだ! … いや、部下に当たっても仕方ない。

上気した頬は 走ってきたからだけでは無さそうだ。何か言いたそうにウズウズしている部下に 、それで? と続きを求めた。

「はいっ! それが腕で締め上げた 絞殺なのです!」

......... 言いたいのはそれか?

急速に脱力する気力を振り絞って、わかった と応えた。 プロの犯行だということは明白だ。

凄いですよね、抵抗した跡もないなんて、凄腕な奴ですよね。

唾を飛ばす勢いで語る部下の臀を蹴り、さっさと検分を済ませろと 叩き出した。

現場に戻る後ろ姿に大きく息を吐き、気持ちを切り替えた。


これでハッキリした。

真緒は 何者かの手によって連れ去られた。行き先はユラドラだ。


彼ら(山神の使い)は間に合うだろうか

マリダナの国境を越える前に、真緒を奪い返さなければ 救出は難しくなる。


だが、希望もある。

ユラドラにはライルが居る。

知謀家のテリアスが、そしてヘルツェイが束ねる精鋭部隊がいる。


こちらも 狐狩りに精を出さねば。

マリダナの狸に女狐を叩き返さねばなるまい。


深呼吸を繰り返し 集中を高めてゆく。

指先まで熱が伝わる感覚に、身体が覚醒してゆくのが分かる。


長い一日になるな …

登り始めた冬の太陽を 目を細めて見上げた。











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