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29.甘い時間

ライルの胸に頭を寄せて横抱きのまま、馬に揺られている。身体は疲労のピークなのに、頭の芯が冴えて この状況を意識してしまう。

(これってお姫様抱っこってヤツですよね…?恥ずかしい…)

羞恥心で死ねるなら 間違いなく死んでる、うん。

きっと顔が赤い。こんな顔、ライルには見られたくない。意識している自分を知られたくない。

馬に乗るのは初めてだから、どうすればいいのかわからない。落ちたら怪我くらいで済むのだろうか…

あれこれ思考を飛ばしてみるが、心臓の高鳴りは鎮まらなかった。

馬の速度が落ちて、揺れが少なくなかった。

真緒はゆっくりと身体を起こし、ライルから身体を離した。月明かりが白銀の髪を照らし、厳しい顔つきのライルを雄々しくみせる。

イケメン…眼福だわ…

そんな不届きなことを考えていないと叫んでしまいそう。真緒は胸の高まりを抑えられなかった。

真緒の身体の温もりが離れてしまうと、ライルは真緒の腰に回していた腕に力を入れて引き寄せた。

「…寒くないか…?」

胸に触れている頬に声の振動が伝わってくる。ライルの鼓動、息遣いまで感じ取れる。永遠にも感じられる時間(とき)が刻まれていく。

何故こんなにも真緒を愛おしく想うのか

ライルは自分の気持ちに戸惑っていた。初めは 意志を持った黒い瞳に目を奪われた。いきなり異世界へとやってきたのに 淡々と受け入れ 楽しもうとするバイタリティの高さに憧れにも似た気持ちが芽生えた。もっと彼女を知りたい。そして、真緒の行方が分からなくなったとき、自分の気持ちを知った、彼女を護りたい、と。

今、この腕に真緒を抱いている。その悦びと安堵にライルの胸は満たされていた。

「すぐに来れず すまない」

ライルの言葉に真緒は首を横に振った。

「来てくれた…それだけで 嬉しい」

あぁ、彼女の声だ。胸が震える。こんな細い身体で一人逃げてきたのか…どんなに怖かったことだろう。今更ながら自分が後手に回っていたことに唇を噛んだ。


二人は言葉を交わすことなく、蹄の音だけが月夜の森に響く。真緒はライルの鼓動を感じながら、今までのことを思い返していた。

何故、拐われたのか?

━━私は 殺されるの?

剣先を向けられた恐怖が蘇り、身震いする。真緒の変化に敏感に気づいたライルが抱く腕に力を込めた。

「私、邪魔者なの?『おまえは国を乱す。争いの種は要らない』って言われたの」

「この世界に望んできた訳じゃない。それなのに…」

邪魔者扱いで殺されちゃうの?真緒のやるせなさが痛いほど伝わってきた。

「争いの種って、私はこの国にとって何なの?」

何の力もない。知識もない。ただの小娘なのに。

真緒はちゃんと知るべきだ。

ライルは意を決した。

馬を止めて、真緒の身体を両腕で抱き締めた。その力強さに真緒の呼吸は一瞬止まる。そして、その腕の中から抱き起こすと、視線を合わせ真緒に告げた。

「マオ、貴方は国王の娘かも知れないんだ」

ライルは視線を逸らさずに続けた。

「あの絵、あれを描いたのは国王だ」

「…えっ…?」

「王位継承権を持つものが現れれば それを利用するものも現れる。この国は王位継承を巡って国が割れ、争いが長くつづいて国が荒れたんだ。他国からの侵略の危機に晒され、国の存亡が危うい時期があったんだ。昔の話じゃない、今の国王が即位する少し前の話なんだ」

「国王の子の存在が 争いを招く。そう考える人間がいるんだ。貴方の意志など関係ない」

真緒の目は見開かれたまま、瞬きを忘れたようだった。

━━あなたのお父さんは王子様なのよ━━━

お母さーん!それ、本気で言ってたの!?

聞いてないよ…

冗談だよね…







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