25.協力者②
ヴィレッツ伯が 何故 ここに…?
ライルの思考は混乱していた。
闇に紛れ動く影は【|蜘蛛《アレニエ】だろうと確信を持っていた。しかし、ヴィレッツ伯が接触を図る目的がわからない。騎士の礼をとったまま固まるライルにバリトンの声が掛かった。
「礼はいい。座ってくれ」
その声に金縛りが解けたように固まった身体を動かす。ギシッ、と音がしているかもしれない。ぎこちなくヴィレッツの斜め向かいへ腰を降ろした。
「話をしよう。渡りの姫のことだ」
ライルの顔つきが変わったのを満足気に頷くと、ヴィレッツは続けた。
「名はマオと言ったか。アレの居場所が知りたいか?」
足を組みかえ膝で腕を組む。さり気ない仕草さえ優雅にみえる。
「王も【蜘蛛】を動かした。時間が無い。宰相の息子よ、お前はこの国に争いを望むか?」
射る様な視線がライルを捉える。
「どうぞ ライル と。
私は争いは望みません。望むのはマオの無事だけです。彼女を護りたい、それだけです」
ライルはその視線に負けないように強い意志を込めて視線を返した。
「火種は要らない。それでもマオを望むか?」
「マオは出自を知りません。ミクの娘であることは確かですが、国王の子である確証はありません。火種にはなり得ない筈です」
「…ライル…。なぜ私がマオの存在を知っていると思う?」
「…?」
「私もナルテシアの血を引いている。精霊の声を聴くことができるんだよ」
衝撃の事実にカイルは言葉を失った。
「渡りの樹は真実を知っている。その真実を私は知っている━━━そういうことだ」
茫然とするカイルに顔を寄せ 続ける。
「マオは王の子だ。」
「…だから連れ去った、と?」
「私ではない。お前の父である宰相が仕組んだことだ」
呼吸が荒い。心臓の音が煩い、それがカイルの思考をより混乱させた。
「お前は宰相の駒ではない。マオを護れ。それが渡りの樹の【意志】だ」
ヴィレッツはライルの肩に手を掛けるとその手に力を込めた。
「あれらを使え。マオは渓谷の館に居る」
 




