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252.謀られた祝福

顔を寄せ、囁き合うフロイアスとローゼルシアの姿は、諸国の要人だけでなく、サウザニア貴族にも強く印象づけた。

ヘルデハーク公爵はヒルハイト王の許しを得たのだ。フロイアス王太子に着いたのだ。その証が、後継となるフロイアス王太子とローゼルシアの婚姻であると。


━━━ 国内の勢力図が変わる。


誰に与するべきか ━━━ 如実に表していた。

色めき立つサウザニア貴族の姿を、扇越しに覚めた視線で一瞥し、アルマリアはヒルハイトに視線を移した。


ヒルハイトにとっても悪い話ではない。

エストニルからの取り引きがなくても、ヒルハイトの思考の中にこの婚姻は存在していた。ここまでエストニルの思惑が絡むとは想定していなかったが、マリダナが後ろ盾につき、三国の関係を密にしたエストニルを敵に回してまで渡りの姫を得るメリットは無いのだ。

国内を纏めるためにはヘルデハークの協力は必須だ。磐石な体制を作るためにも、フロイアスとローゼルシアの婚姻は願ってもないことなのだ。

他国の意向で踊らされている不快感はあるが、これ以上の不利益を国にもたらす訳にはいかない。

国を 民を護らねばならない。このままでは、かつてのエストニルと同じ道を歩むことになる。


「…似合いのふたりですな」

ヒルハイトの思考を声が遮った。

マージオがヒルハイトに並び立ち、連れ立って談笑するヤーデンリュードとヨルハルに、その姿を指し示した。

「あれが、サウザニアの王太子か。美丈夫であるな」

ヤーデンリュードはヒルハイトに向かい、立派な後継が決まり結構なことだ、と賛辞を贈った。

ヒルハイトは王たる者の表情を張りつけ、ヤーデンリュードに丁寧な返礼の言葉を返した。

マージオが意図的にこのふたりの王をヒルハイトの元に案内してきたことは明らかだった。

それは、エストニルの立ち位置を、この場に居る者たちに知らしめるためだ。


国賓然り。サウザニアの貴族然り。

そして、ヒルハイトも例外では無い。


格下の属国的な認識であった(エストニル)に出し抜かれ、並ばれたどころか見下されかねない立場に置かれたのだ。ヒルハイト屈辱的な事実に奥歯を強く噛み締めた。

だからこそ。

この悔しさをこのままにはしない。

だが、今は駄目だ。力がない。


ヤーデンリュードの姿を認めたフロイアスとローゼルシアは、踊りながらフェイドアウトすると、人混みを避けて 挨拶をするために戻ってきた。

ヤーデンリュードにもふたりが近付いて来る姿に気付き目を細め、その瞬間を待つ。

やがて二人揃ってヤーデンリュードの前で礼を取ると、グラスを軽く掲げ、その挨拶に応えた。

「マリダナ王 にご挨拶申し上げます。サウザニア王太子 フロイアスにございます。以後、お見知り置きください」

(…ほぅ… 詰めは甘いが、よく情勢を分析している…)

ヤーデンリュードは、フロイアスに意図的にいくつかの問いを投げかけてみたが、そのやり取りはヤーデンリュードを満足させるものであり、警戒する相手と認識するのに十分だった。ヨルハルに感じた資質とはまた違う。

この男がサウザニアを盛り立てたら、この先脅威となるだろう。エストニルとユラドラとの関係を得て先手を打てたことに安堵する。

視線を感じ、それを辿ればアルマリアのそれとぶつかった。

━━ この男(フロイアス)、どう見る?

扇越しに向けられた視線に、そう問いかけられていた。

━━ なかなかの 御仁 のようだな… 面白い …

そう 返すと、アルマリアの一層細められた目が 一瞬鋭さを宿した。

━━ あれは 気の抜けぬ相手であろう?

━━ 追い落とすのか…?

━━ いや、戦乱は望まぬ。()()は 我が母国。我が息子(ナルセル)と共栄する未来を得たい


視線のやり取りは互いの含み笑いで終わった。

次世代の統治者が定まっていないマリダナにとって、この宴は良い機会であったろう?

アルマリアはその笑いに、そんな思いを込めた。

気の抜けぬ後継を得ている我々三国に対して、マリダナの今後が楽しみだ。この大陸を戦乱に導くのか、共栄する道を選ぶのか…


「…美しいご令嬢を ご紹介いただけるかな?」

ヤーデンリュードがローゼルシアに視線を向ければ、フロイアスの紹介に合わせ、カーテシーを取った。


秘密裏に繋ぎを送ってきたのは、この娘か…

ヒルハイト暗殺を企てた第一王子廃嫡の直前に、亡命の打診をしてきた者。父親であるヘルデハークの保護を求めるものだった。第三国なら身柄引渡しされないだろう、そう考えたのことだったのだろう。突然の申し出に思案しているうちに、アルマリアに出し抜かれたのだ。

理知的な瞳が、ヤーデンリュードをみつめる。

その瞳は心の奥底まで見透かすようで、居心地の悪さを覚えた。その事までも見透かされているような気分になり、意識して眼力を入れ、視線を返した。

それに臆することなく見つめ返す瞳は曇りがなく、理知的な中に激しさを秘め、アルマリア…、いや、妻であるステリアーナと重なった。あの姉妹に通ずるものを持っているのか…。

自分に釣り合う年頃の王子が居ないことを、少し残念に思った。

「サウザニア王よ、王太子は良き伴侶を得られたようで何よりですな」

その言葉にふたりは非対称な反応を示した。


不愉快そうに眉をひそめた、フロイアス。

頬を朱に染めて 恥ずかしげに俯く、 ローゼルシア。


「マリダナ王に祝福頂けるとは嬉しい限り。フロイアスにはしっかりとした後ろ盾が必要ですからな」

ヒルハイトが殊更大きな声で告げれば、タイミングを謀ったように、マージオとアルマリアが話に加わった。

「それは良い話ですな。我々も祝福しますぞ」

マージオはそう宣言し、それに倣って方々から祝福の声や拍手が上がった。

アルマリアはローゼルシアに微笑みかけ、慶びが重なるとは、嬉しきこと。そう告げると、自身の傍へ呼び寄せた。

国王たちに祝福された婚約は、あっという間に宴の話題となった。

サウザニアの貴族は我先に祝辞を述べ、自身を売り込もうと集まり、あっという間にヒルハイトとフロイアス、ローゼルシアの前には何重にも囲いができた。それを満足気に頷き、ヤーデンリュードはアルマリアに目配せし、控えの間へと退いた。

囲みから離れ、マージオとアルマリアもヤーデンリュードに続き、玉座へと退いた。


宴は 最高潮に達し、人々の歓喜と祝福の熱気に満たされる。

逃れる術を見いだせないまま、フロイアスは人好きのする笑顔を貼り付けていた。


全ては 謀られたシナリオなのだ


ローゼルシアが語った、サウザニアの置かれている状況、エストニルとの関係…、マリダナの存在。

この大陸でサウザニアが取り残されないためには、国内を纏めなくてはならない。これ以上混乱を長引かせれば、国は力を失い、以前のエストニルの二の舞だ。


それを止める手立てが、仕組まれたこの婚姻。

それをこの宴で諸外国に見せつけること。


エストニルに踊らせれた屈辱に、フロイアスは奥歯を噛み締める。ローゼルシアはそっとフロイアスの背に手を添えた。


今は 堪えて …


その手は 宥めるようにいつまでも添えられていた、












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