25.協力者①
真緒の居場所が掴めない。
真緒の行方がわからなくなってから2日が経っていた。父が関与していることは間違いない。何度か詰め寄ったが躱され、兄には監視を付けられ 思ったように身動きが取れず 八方塞がりだった。
ライルの苛立ちはピークに達していた。
マオの存在が国王に知れたら【蜘蛛】が動くかもしれない。
【蜘蛛】━━━━━━
王家直轄の諜報機関である。その名は貴族に広く知れているが、実際の存在を知るものはいない。諜報は国内に留まらず国外でも暗躍し、国政の暗部を担うと言われている。その【蜘蛛】を動かせるのは国王と先王の弟ヴィレッツ伯だけだ。
真緒が国王の子である可能性を示唆すれば、国王は必ず動く、ライルには確信があった。
問題は、国王にどうやって伝えるか、だ。
父は宰相として国王の傍に常に控えているし、兄が付けた監視の目を掻い潜り国王との謁見を行うのは不可能だ。
くそっ!
感情のままに拳を振るった。
何度も何度も叩きつけ 壁に身体ごと凭れた。
「━━ライル様━━」
突然背後から声が掛かった。幾ら感情が乱れていたとしても 騎士である自分が背後を取られたことに驚愕した。囁きは低く、抑揚のない特徴のない声だった。
背後から鋭い気配に金縛りのように動けない。
「渡りの姫」
その言葉に全身に緊張が走る。ライルは全神経を背後に集中させ、次に続く言葉を待った、
「主がお会いしたいと」
声は要件を伝えると気配を消した。緊迫した空気が消え、ライルは額の汗を拭った。
敵か 味方か━━━
敵でも構わない。真緒の手掛かりが掴めるのなら。
必ず真緒にたどり着いてみせる。
月夜の闇が深みを増す。
漆黒の服で身を包んだライルが街外れの廃屋で夜闇に溶け込んでいた。背後を取られる失態を犯すことは二度はない、ライルは警戒を一層強めて周囲を警戒した。廃屋を抜ける風の音だけが響く。
(そろそろ時間だが…)
辺りに何の気配もない。図られたか…心の隅に疑念が生まれる。
「主がお待ちです」
不意の声にライルは腰へ手を伸ばした。
何の前触れも無く、目の前に闇に溶けた人型が現れた。逆光に妨げられその姿を捉えられない。ライルの背後に更なる気配が動く。再び背後を取られたことにライルの背中に汗が伝う。
「こちらへ」
否はない、このために来たのだ。ライルは意を決して後に続いた。
木々の中に装飾のない馬車があった。
影は馬車の手前でスっと跪くとライルの剣を要求した。剣を影に渡すと、馬車のノブに手を掛けた。
「ようこそ」
耳に 心地よいバリトンが響いた。ライルは目の前の男に見覚えがあった。反射的に騎士の礼を取る。
先王の弟 ヴィレッツ━━━━
2代前の王は正妃の他に側妃が4人いた。しかし子供に恵まれず、マージオの父である先王と最後に迎えた側妃との間に生まれたヴィレッツだけであった。兄弟といっても歳の差が大きく、マージオと兄弟という方がしっくりきた。ヴィレッツは現国王を巡る争いのときは他国へ遊学しており、王位継承を破棄し国へ戻ることは無かった。マージオが王位に着くと、帰国し 臣籍降下を願い出た。復興の礎を築いた人物である。
その功績は大きく、臣籍降下した今でも王位を望む一部貴族が少なくなかった。
そんなヴィレッツが 何故 ここに…?




