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248.告げる想い

漆黒の黒髪は月明かりに映えて 美しかった。

まだ肩にはつかないが、窓から入る風に揺れるくらいに伸びた髪は、真緒の頬を擽っていた。

ライルは飽きることなく その髪を指に絡めて弄んだ。薄く開いたから規則的な息が漏れ、その度に少し尖った上唇が震える。

固く閉じた黒曜の瞳が開かれたとき、何を初めに映すのだろう。それが、自分であってほしい。

期待を込めて、その瞳を見つめる。

華奢な肩が息遣いに合わせて上下する。

肩から腰に流れる稜線に沿ってそっと手を添わせば、うちから沸きあがる愛しさが心を支配し、掻き抱きたい衝動に駆られた。

この穏やかな時間が 長く続いて欲しい。

そう願う気持ちと、

早く目覚めて その瞳に自分を映して微笑んで欲しい。そんな気持ちが せめぎ合う。

オレも大概だな…

大きく息を吐いて、気持ちを落ち着かせた。


真緒が渡りの樹に現れた夜も、今宵のような見事な満月だった。月明かりに照らされた 黒髪の見慣れぬ少女に目を奪われた。

そんな出会いの場面を懐かしく思い出す。眠る真緒の傍らに腰掛け、月明かりが差し込む窓から月を仰ぎ見た。


こんなに愛しい存在になるとは。


ライルはそっと真緒の頬を撫でた。

知らない世界からやってきた少女は、あっという間にライルを虜にした。

黒曜の瞳は、芯の強い真っ直ぐな心根を映し、常に自分らしく自由であろうとする真緒をより輝かせていた。

争いのない世界で育った彼女。

危険な目にあったとき、この腕の中にすっぽりと入ってしまう身体は震えているのに、決して自分らしく生きることを諦めなかった。この小柄で華奢な身体のどこにそんな力があるのだろう。


そんな姿に 心奪われたのは 自分の方だ


ずっと ずっと 護るから

共に この世界で 生きて欲しい ━━━━━


月明かりに照らされた 真緒の横顔を見つめる

柔らかい表情は思ったよりもあどけなく、

そして

とても 美しかった


「…マオ…」

堪らず名を呼んだ。それに反応して瞼が震える。

まつ毛が 細かく揺れる。

黒曜の瞳がみたくて、焦れたライルはもう一度 その名を呼んだ。

瞼の震えは更に大きくなり、眉間によった皺が開眼を予想させる。

一瞬、強く瞑られた瞼が ゆっくりと開いてゆく。

蕾が綻ぶように、ゆっくりと開いてゆく様に、ライルの鼓動は高まった。


早くその瞳に オレを映してくれ

そして

その唇で オレの名を 告げて欲しい


見開いた瞳に 自分の姿が映る。

焦点の合ってない瞳は まだオレを認識していない

早く 気づいて

呆けた顔に 次第に 表情が現れてゆく

魂を得たように 豊かになっていく表情に ライルの期待が高まった


「…ライル…?」

かすれ声で名を紡がれて、この上ない幸福感に包まれた。

そっと 手を取り、自分の指と絡めた。

そして

真央の額に唇を寄せた。

濡れたタオルのせいだろうか。その額はひんやりとして気持ち良かった。擽ったそうに顔をクシャりとさせて肩を竦めた真緒を、そっと抱き寄せ、自身の腕に閉じ込めた。


この幸せが逃げてしまわないよう、そっと抱く腕に力を込めた。

「…マオ」

名を呼ぶことが こんなに幸せな気持ちになれるとは思わなかった。じわりと胸の奥から湧き上がる想いが、ライルを幸せで満たした。

そっと真緒の身体を離すと、ベッドの脇に膝まづいた。絡めた指を抜き、その手を取り自身の額を当てた。

「ライル…?」

その行動の意味が解らず、真緒は堪らず名を呼んだ。

胸に手を当て、額に当てた手を唇に寄せて、そのまま真緒の瞳を見つめた。


「貴女を愛しています。

死が分つまで 共に生き、共に在りたい と願う」


ライルは胸元から取り出した小箱を開け、真緒の薬指にそれを嵌めた。


「結婚してください」


真緒の瞳が見開かれた。

黒曜の瞳に涙が溢れ、月光を受けてその雫は輝き、頬を伝った。

ライルは指に嵌めた指輪に口付けて、小箱に残る指輪を真緒に強請った。

「YES なら、それをオレに嵌めてくれないか」

ライルの声は震えていた。

ライルの緊張は、取られた手を通して真緒にも伝わっていた。震える手で指輪を手に取ると、ライルの左手を取る。

期待と不安が入り交じったライルの青紫の瞳が、真緒を見つめていた。


「貴方を 愛しています。

この先も共に生き、そばに居ることが私の喜びであり、幸せです」


震える手で薬指に嵌められた指輪は、真緒と揃いの青紫の石が散りばめられていた。


「…惹き合いの石…!」


零れたつぶやきに反応するように、惹き合いの石は輝いた。それは光を放ち、やがて互いを包み込んでいった。


どちらからともなく、身体を寄せ合い、唇を重ねた。

吐息に移る想いは深くなる口付けに色香を添える。

そっと身体を横たえると、ライルは更に深く真緒を求めた。激しくも優しいその口付けに溺れ、真緒の身体は溶けていった。


今は 心だけ。

マオの想いだけ 貰うよ


そう耳元で囁き、抱く力を込めて真緒を包み込んだ。

お互いを抱きしめ合いながら、月明かりにその姿を晒す。タッチングだけなのに、火照る身体は敏感にライルを感じ取って反応した。気恥しくて胸に顔を擦り寄せれば、髪をいじる指が愛おしそうに首筋を撫でた。


「…明日、宴で殿下の縁戚の娘と宰相の息子はマリダナ王の祝福を受け婚約する」

つまりオレとマオのことだ。

ライルは気まずそうに口火を切った。

だからその前に、自分の言葉で 自分の気持ちを伝え、約束を交わしたかった、そう告げた。

「政治的な側面があることを否定はしない。でも、オレがマオを想う気持ちや 共に生きたいと願う気持ちを疑わないで欲しい。誰が何を言っても構わない。

━━━ マオが信じてくれたらそれでいい」


ライルの腕の中、伝わる鼓動が早まるのが分かる。

気持ちを疑った。

ライルを信じることができなかった、愚かな自分。


言葉で傷つけ

苦しく切ない時間を過したが、

今 此処にある気持ちが全て

それで いい。


「━━━ 信じる。貴方を 信じる」

ハッキリと言葉にしたら、それは言霊となって真緒の心に一筋の柱となった。

ライルの鼓動が 強く 打った … 気がした。

それが ライルからの 返事に思えた。



「…身体は辛くない?」

ライルの問いに、うなずき答える。薬が効いたのか、眠ったのが良かったのか。気だるさは残るものの、吐き気や眩暈からは解放されていた。

「マオがあの女(シェリアナ)と会うことは二度とないだろう」

冷たく言い放たれた言葉に、胸元から顔を上げてライルを見つめた。

「他国の王太子に薬を盛ったのだ。更に父親の公爵は敵対関係になる国と秘密裏に接触していた、許されない事実だ」

あの女との婚約は有り得ない。

そしてあの王太子に マオは渡さない。


真剣な瞳が真緒を見つめていた。

信じる。

真緒もそれに応え、真っ直ぐな視線を向けた。

ライルの頬に手を差し伸べれば、青紫の石が淡く輝いた。小首を傾げ、両頬を包み込みそっと撫でた。

ゆっくり膝立ちして自ら唇を奪うと、自らの胸にライルを抱いた。

銀糸のような髪は柔らかく、短髪ながらふわりとした感触で真緒の頬を擽った。


貴方を 護るわ ━━━━


心優しい 真っ直ぐな ライル

貴方の こころ は 私が 護るわ …


満月が照らす恋人たちの夜は 静かに更けていった



















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