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234.幼馴染み

厨房にはダンと見慣れぬ男がいた。

男は街に馴染む労働者の身なりをしていたが、その眼光だけがそぐわない。隙のない立ち居振る舞いはエイラと同じ香りがした。

「彼の姫は 奴らではなく、別の手の中にあります。あれ(エイラ)がついていますが、どうしますか?」

顎に手を当て口元を拭うように指先を滑らしダンはその報告に思考を巡らせていた。


最近はゴロツキからプロの手合いが多くなり 手口が巧妙化してきた。そこへ ナーシャを使い、あの王子(フロイアス)が真緒をおびき寄せようとしている事がわかったのだ。

明らかな殺意を持って真緒に向かう者たちと、自分のものにしたいフロイアスでは目的が違う。明らかなプロはサウザニアの手のものだろう。自ら闘ってみて、長年の経験がそう告げる。第一王子派の可能性も否定はできないが、それよりも考えられる人物がいる。


フロイアスの腹心、フォルス だ。


フロイアスが熱望するマオだが、フォルスにとってあくまでフロイアスが王太子となり、王となるための切っ掛けにすぎない。それなのに、フロイアスは執着するあまり 我を忘れた行動を取り、ヒルハイトの怒りを買っている。真緒を消したい、そう考えても不思議ではない。

ゴロツキは真緒の存在が邪魔で仕方ない シェリアナの仕業だろう。ずさんな手口ですぐに足が着く。世間知らずなお嬢様が考えそうなことだ。

埒の開かない真緒の暗殺に、フォルスが本腰を入れ始めたというところか。


「そのまま見張れ」

その言葉を受け、その男は闇に身を滑らせた。

「父さん」

エイドルが厨房に心配顔で入ってくると、ダンはエイドルの髪をクシャクシャと掻き、心配要らない、と告げてフロアへ戻っていった。


何かあったのだろうか?

マオは無事なんだろうか。エイラがついているのだから大丈夫だろう。そう思っても不安が拭いきれない。

マオを狙う奴らが手口を変えてきているのは感じていたから、壊滅に向かって動くのはいい。だが、囮にするということは、マオを危険に晒すことだ。


ダンの指示のもと、マオが抜け出せる隙を作った。

更に 騎士団の集まりがあることも、ダンがナーシャに手伝って欲しいと頼むことで、奴らに自然に伝わるように意図的に仕向けたものだ。

そして今日を迎えたのだ。


ダンの後についてフロアに戻る。

フロアでは笑顔で騎士の間をすりぬけるナーシャの姿があった。

我々に利用されているなど、夢にも思わないだろう。

純粋な気持ちで、外に出たい真緒に協力したのだということはわかっている。


正義感に溢れ、負けん気が強く、邪険にされても兄たちの後を 泣きながら追ってきたナーシャ。

そんなところは真緒に似ているかも知れない。


働くナーシャの姿を視線で追いながら、ぼんやりと考えていると、視線が合った。

頬を染めて見つめ返されて、エイドルは咄嗟に視線を逸らした。

いい子だと 思う。

その存在は真っ直ぐで眩しい。

でも、その気持ちに気付かない振りをしてきた。

その想いに 自分は応えられない。

マオに告げるつもりはないが、彼女を想うこの気持ちとは もう少し付き合っていたかった。

エイドルは視線を落としたま、ナーシャの視線から逃れるように あいた皿を集めて回った。



大通りを外れ、少し離れた場所に止められた質素な馬車の中で、激昂する主人をフォルスは必死に宥めていた。

「どういう事なんだ! フォルス、お前何か知っているのだろう?マオを何処へやったんだ!」

フロイアスは目立ちにくい落ち着いた色合いの服に身を包み、マントを目深に被っていたが、興奮してそのフードは外れ、見事な金髪は差し込む月の明かりに照らされ輝いていた。それに構うことなく、扉の前で制止するフォルスの腕を押しやり、その襟首に手をかけた。

「落ち着いてください。今、探させています。それに、私は関与しておりません!」

ここを通したら、フロイアスは自ら市中を捜索するだろう。正体が明らかになるのも問題だが、まだ生命を狙われる立場にあるのだ。無闇に動かれては困るのだ。

それで落ち着くなら殴られても構わない、フォルスは覚悟を持ってフロイアスの肩を掴み、強引に椅子に引き戻した。

「誰かに 攫われたのは事実です。我々も足取りを追っています。どうか報告をお持ちください!」

息も荒く言い切れば フロイアスの手が緩み、フォルスは自由を得た。フロイアスの手は自身の頭を抱えて、深く項垂れた。


やっとこの手に抱ける筈だったのに…


強く噛み締めた唇から 鉄の味がする。乱暴にそれを拭うと、その拳を壁に叩きつけた。

市井に匿われている。

ようやく突き止めたが、ニックヘルムの息の懸かったその店は真緒を奪い返すのが難しかった。少数ながら手練が護る。送り出した影たちは 帰る者はなかった。

更に ゴロツキたちが無計画に襲撃するため、街を護る騎士団に目をつけられてしまっていた。


そこに現れたのが、ナーシャだった。

ほぼ毎日、食材を搬入したり、覗き見たりして店の者たちとも交流がある。

さり気なく近づいた。真緒と想い合っている、気持ちを伝え合いたいのだと懇願すれば、協力を約束してくれた。

騎士団の集まりがある。自分も手伝うことになっているから その間の少しの時間なら、真緒を外へ連れ出せるわ。瞳を輝かせていたのだ。

まさか、あの女 裏切ったのか…!


そうであれば 許さない。

とにかく報告を待たねばなるまい。扉の前で微動だにせず、こちらを見据えるフォルスの視線に 睨み返した。









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