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232.懲りない

入り組んだ細い通路が裏路地を張り巡ぐる。

そこに住む者にとって 生活の一部であるが、薄暗いその場所はよからぬ事を考える者たちが暗躍する場所でもあった。

そして、悪事を働く奴らを始末するには、お誂え向きだ。エイラは通路に転がる骸を一瞥すると、剣をその骸で拭った。

(…三人か…)

大した奴らではなかった。虚勢ばかりでゴロツキに近い。サウザニアの手のものでは無いのは明らかだった。

真緒の隠れ家の情報は、既に知れているだろう。

その証拠に連日飽きもせず、どうしようもない奴らが送り込まれてくるのだ。それらの相手は既に日課となりつつあった。


「済んだか?」

ダンの声にエイラは えぇ、と短く答えた。足蹴して骸を仰向けにすれば、ダンは顔を顰めた。

「…小者だな」

奴ら(フロイアス)は動かないのか…。

既に知れている筈だが、自分の手を汚さずに始末できれば良いと考えているのだろうか?

「どこぞの令嬢が 嫉妬に駆られて雇った奴らだろうな」

「たいした奴らではないが、こうもしつこいと面倒だわ」

エイラはうんざりだと、肩を竦めた。

「…そろそろ あれ(マオ)が限界だ。怠るなよ」

わかってるわよ、エイラはダンの忠告に頷いた。真緒の武勇伝はきいている。あのヘルツェイが出し抜かれたと聞いたときには驚いたが、素人に出し抜かれるほど自分は間抜けではない。スカートの汚れを払い、短剣を戻すとダンの後を追い、店へと戻った。


そのころ ()()は、苛立つ気持ちをエイドルにぶつけていた。

「ねぇ!ちょっとくらいいいじゃない。エイドルが一緒なら問題ないでしょ」

「ダーメ!」

ちょっと、お菓子強請ってる子供じゃないんだから、ダメ、ってないでしょ?

「お願い!少しでいいの、外へ行きたいの」

エイドル、あなたが頼りなの。

今度は下手に出て、可愛いくお願いしてみる。上目遣いに両手を組んで必殺、お願いポーズだ。

ふぅ、と呆れたようにため息をついてエイドルは腕を組む。さすがに騙されてくれないのね。

「…ねぇ、その少しだけ、で今まで散々な目にあってきたよな。沢山の人に迷惑かけてさ。少しは学習しろよ」


…わかってます。エイドル、容赦ない。

でもね、ずっと家の中。

このストレス、わかって欲しい。


このお願いは 数えきれないくらいした。

勿論、ダンにもエイラにもお願いしてみた。

結論。 あの二人は無理。

エイドルが一番難易度が低そうだ。それでも 頷いてもらえず、今日何度目かの敗北が決定した。


「…ほら、サッサと済ませよう」

雑巾を投げ渡され、思わず受け取ってしまった。渋々拭き掃除を始める。今は開店前で客は居ない。店のフロアで窓を拭いていく。真緒が外界と接触できる僅かな時間だ。窓ガラス越しの世界はどれも華やぎ楽しげに見えた。

この窓枠は鳥籠だ。

わかっている。自分の安全のためなんだって。ダンやエイドル、エイラが自分を護ってくれているんだって。

でも私らしく生きたい。行きたい所に行って、会いたい人にあって、お喋りして…

生活の何気ないことでいい、自由が欲しいのだ。


自由…


その言葉に手が止まる。


『君を自由にしてあげめられるのは私だ。君に曇りのない笑顔をさせられるのは私だけだ』


囁かれた言葉。

耳元に蘇る吐息に 身震いした。

あの言葉はどういう意味だったんだろう。この国にいればこういった生活が続く。サウザニアなら そうじゃない、ってこと?


「マオ?」

突然背後から声をかけられて、驚きに雑巾を落とした。エイドルはそれを拾い、真緒の手に戻しながらギュッと手を掴んだ。

「ライル様がこの手を繋ぐまで、絶対に護るから」

だから、勝手なことするなよ。余計なひとことを付け加えてエイドルは掃除道具を片づけ始めた。ほら、父さんたちが帰ってくる、そういうと顎で窓の外を示した。つられて外に視線を向ければ、建物の角に何かが動くのが見えた。ねぇ!伝えようと振り返ったときには、エイドルは厨房に入った後だった。

身体に緊張を巡らせ、その姿を確認しようと目を凝らす。

正体はあっさり判明した。

エイドルが桶の水を開けているところに、影から走り出てきたのだ。

(え…?…あら…)

全身の力が抜けた。

白い三角巾をかぶり、エプロンをつけた女の子は頬を薔薇色に染めてエイドルに声を掛けていた。


隅に置けないわね。

エイドルは少年の面影を残しているが、騎士として鍛えているだけあり、しっかりとした体躯の好青年だ。今は簡素なブラウスにトラウザーだが、騎士の正装をすれば、侍女たちから熱い視線を向けられていたほどだ。

エイドルは素っ気ない態度で、さっさと立ち去ろうとしているのが見てわかる。

もうちょっと優しくできないの?

思わず窓枠を握りしめ、堂々と覗き見していると、店に戻ったダンが真緒の視線の先に注目した。

「…あぁ、ナーシャだな」

心配ない、怪しい奴じゃない。

そんなことを呟いて厨房に消えたけど。ダン、息子(エイドル)の相手まで暗殺者と同じ括りなのはどうかと思うよ?

ダンの背中を見送っているうちに、もうエイドルとナーシャの姿はそこになかった。


「誰~?可愛い子じゃん」

戻ってきたエイドルに声をかける。するとエイドルは片眉を上げて、難しい顔になった。

「最近よく会うんだよ。奴らの仲間じゃないと思うんだけど…。でも、油断したら駄目だ」

ちょっと!エイドル 鈍すぎる!

あんなに頬を染めて 話しかけてくれてるのに、気付かないの?


ダンもエイドルも ちょっと おかしいよ?

善良な一般市民がほとんどで、悪いことする人は本当に少数なんだよ?


それとも、私の警戒心が足りないのかな…










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