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23.重い枷

体調を崩してお休みしていました。

また 楽しんでいただけたら 嬉しいです。

よろしくお願いします。

荒々しくドアを開け退室するライルの足音が遠ざかる。宰相ニックヘルムは深く息を吐いた。

ライルが真緒の所在を問いただしに来るのは何度目だろう。そつなく物事をこなすが感情が乏しく何を考えているのか 自分の息子であるのに掴みにくかった。そんなライルが苛立つ感情を隠すことなくぶつかってくることが意外であり、どこかで嬉しく感じていた。

傍に控えていたテリアスにライルの監視を強化するよう命じる。テリアスの退室の挨拶に軽く手を挙げ応えるとニックヘルムは己の思考の海に意識を泳がせた。


18年前、長い権力闘争の末、国は荒れ、国民の気持ちは王家から離れていた。そんな状況の中、マージオは国王となった。マージオの学友として親友として青年期を過したニックヘルムは、責任感が強く心優しい親友を公私共に支えようと誓った。マージオは国のため、国民のために尽くしたが、先の見えない現状に身も心もすり減らし、いつしかその顔から表情が消えた。

執務に支障がないものの浴びるように酒を呑み、眠る事のないマージオの姿に危惧し、森の邸宅での静養を強行したのだった。

邸宅では、政務をこなすと森を散策することが日課だった。特に湖畔で絵を描くことに集中することが、マージオの心を取り戻すこに一役買っているようだった。

そんな中、未久に出会ってしまった。

二人が距離を縮めるのに時間はかからなかった。表情が豊かになっていくマージオを始めのうちは微笑ましく見守っていた。親友としても、人間らしさを取り戻していくマージオを見るのは嬉しかった。

しかし、マージオは本気で彼女を愛してしまった。

王都に戻ってからも 忙しい政務の合間を縫って、未久に会いに行く。決して近くはない距離を少数の護衛だけで夜通し掛けて行く。何度も止めたが聞く耳を持たなかった。

国内が安定してきているとはいえ、まだまだ回復途上の中、有力貴族の後ろ盾や諸外国との繋がりを強化していく必要があった。実際にいくつかの縁談もあった。どれが国のために利が有るか検討がなされていた。渡り人である未久ではこの国を護ることに何の利もなかった。

ニックヘルムは親友に王の立場としての賢明な判断を迫った。そして、未久とマージオを引き離す計画を立てた。

遠目に見たことはあるが、未久と話をするのは初めてだった。忍びで訪れたニックヘルムを未久は渡りの樹で迎えた。黒曜の瞳は強い意志を秘めていた。真っ直ぐにニックヘルムを見つめ、感情を乱すことなく静かにその提案を聴いていた。その姿は理知的でニックヘルムを惹き付けた。この女性ならマージオの心を護ってくれるだろう。親友の幸せを願う気持ちに嘘はない。

しかし、この国の回復への歩みをとめるわけにはいかない。再び国民が飢えることがあってはならない。他国からの侵略の機会を与えてはならない。

ニックヘルムは宰相として、国民を、国王を護ることに全てを捧げた。それによって己の家庭が壊れても。

マージオの幸せを奪うことへの罰だと甘んじて受け止めた。

未久がマージオの前から消えた。この世界から消えた。


未久の娘だという 、マオ。

マージオと未久の子なのだろうか…。王位継承権を持つ者が現れれば、国が乱れる原因になる。

己の手を汚すことに迷いはない。

思考の海からゆっくりと現実(うつつ)へ浮上する。

子であるか 否か、それは些細なこと。問題はその可能性が火種になるということ。火種は小さいうちに消し去らねば。

既に重い枷を背負い、茨の道行く己に 迷いはない。



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