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228.策謀

執務机に向かい、深く息を吐く。

朝から 騒々しく 気が滅入る。ニックヘルムは大きな溜息をつくと、差し出されたカップに口をつけた。

人払いされた室内は、今は独りだ。

襟を緩め 椅子の背に身体を預けると、目を瞑った。

まったく 手間のかかることだ。


しばらくすると、ライックが戻ってきた。

その顔には笑みを浮かべ、鋭い視線は猛禽の目だ。

この顔…

この男が楽しんでいるときの表情(かお)だ。

昔から こうなのだ。こうなったらこの男を止めらるものはいない。ため息と共に 目線で促すと、したり顔で報告を始めた。


フロイアス殿下に不敬を働いたライルは、営倉入り。

そこでも命令に従わず、テリアスがいた監獄へと投獄され、ヴィレッツ預かりとなった。


それで良い。

ニックヘルムは頷く。予定通りだ。

「ライルはどうだ?」

息子の様子を尋ねれば、ライックは堪らないとばかりに珍しく声を出して笑った。

「宰相閣下に似ず、純粋というか、愚直というか…」

失礼な…。

半目で睨めつければ、ライルらしくて良いのでは?甘いところもありますが、血は争えないところもあります、と付け加えた。

「騙した形にはなりましたが、ライルはマオのことになると、自制が効きませんから」

苦笑いにはライルに対する愛情が滲みでていて、ニックヘルムもつられて口許を緩めた。


宰相邸に保護したあと、真緒はダンの手で市井に移した。匿うにはダンの元以上に最適な場所はない。

ただ、それを事前にライルには教えなかった。

フロイアスを牽制するのに精々役立て貰う。

フロイアスはこちら側(エストニル)がマオを隠したと糾弾してくるだろう。一番に疑われるライルは、目論見通り余裕のない姿をフロイアスに晒してくれた。疑わしい者がマオが消えて不穏に陥っているのだ。今頃 疑心暗鬼に陥っていることだろうわ

水面下で動いている策謀が完成するまでの目眩しとなってくれればいい。


「兎に角、ライルにはユラドラへ向かわせました。テリアス様の方はどうですか」

ライックは表情を一変させ真面目な声色となった。

「ビッチェル王子のことがある。彼の国は非常に協力的だ。すでに列強国と呼ばれる国々との繋ぎはできている」

ニックヘルムの言葉にライックは深く頷いた。

「王妃様の方は?」

「第一王子派を厳しく追い込んでくれたおかげで、大物を引き込むことができた。彼の国で交渉中だ」


今度はニックヘルムがライックに尋ねた。

「フロイアス殿下はどうだ?」

「マオに執着しているのが気になります。特に渡り人の力を欲しているということではないようです。どうやら宿屋で見初めたようですな。ヒルハイト王が後継とマオの婚姻を考えていると知り、後継に名乗りを上げたというのが真実のようです。それをフォルスという腹心の男が、担ぎあげた」

その男(フォルス)はどうなんだ?」

「第二のニックヘルムを気取ってますよ」

ニックヘルムが渋面を作る。何なんだ、それは。

「王座に遠い王子を王位につけた立役者。フォルスという男もそうなりたいのでしょうな」

不愉快だ、ニックヘルムは吐き捨てた。ライックもまだフォルスという男を図りかねている。

サウザニアの後継争いを勝ち抜けてきたのだ。それなりに策謀にも長けているのだろう。

では、他国との利害が絡み、フロイアスの望まない形となったとき、どうするのだろうか。

ミクを失ったように、マオよりも王位を選択させることができるのだろうか。

…いや、きっと大丈夫だ。

「必要とあらば、手を組みますよ。(フォルス)は、フロイアス殿下を王位につけるために利害が一致するなら我々の手を取るだけの度量はありそうだ」

ライックは笑みを浮かべ、猛禽の目でニックヘルムを見た。ニックヘルムの視線と絡む。


ニックヘルムは立ち上がり、窓を開け放った。

こんな高揚する気持ちは久し振りだ。

丁度今の息子たちの歳の頃と同じだろうか。

マージオと ライックと 共に駆け抜けた若かりし頃が 脳裏に蘇り、しばし過去の回想に浸ったのだった。



フロイアスはフォルスに、引きずられるように自室へと戻った。人払いをし フォルスと二人になると、話を切り出した。

「どう思う?」

もちろん、マオのことだろう。フォルスは落ち着きを取り戻し、いつもの冷静なフロイアスに戻っていることに安堵した。

「宰相の手の内に匿われているのだと考えていましたが、あの騎士(ライル)の様子を見ると 少し違った考えもあるかと」

フォルスの言葉に関心を示し、フロイアスは続きを促した。

「第一王子派の可能性もあります。あの娘を手に入れれば、ヒルハイト王の関心を引くことができます」

ですが、国では第三王子が一掃している頃合で、こちらまで手を出せる状況には無い筈です。

自身で言葉にして、やはり納得のいくことではないのだろう。フォルスは思案するように口を噤んだ。

背もたれに身体を預け、フロイアスは大きく息をついた。確かに そうだ。

「私の方で あの娘の行方は探ります。今はヒルハイト王の不興を買うことは得策ではありません。どうか自重してください」

懇願するように真っ直ぐな視線を向けられては、フロイアスも頷くしかない。


マオ、

君は何処にいる? 泣いていないか…?

私のところなら いくらでも護ってやれるのに


早く この腕に もどっておいで ━━━━━


目を瞑り 柔らかな微笑みを浮かべるフロイアスをフォルスはみつめた


やはり あの娘は フロイアス様の枷になる…

















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