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216.想う

「やはりな。サウザニアの犬か」


!!!

やっぱりって なに?

分かってたのなら こうなる前に何とかしてよ!

なんだか 囲まれてるし!


砂だらけのの背中に庇われているが、後ろ手に縛られているため 縋ることもできない。起き上がるのも大変だったんだからね!庇ってくれる相手に酷い言い様だが、痛い思いをしたのだから、心の中での悪口くらい許して欲しい。

襲われる恐怖は、何度経験しても慣れるものでは無い。思考くらいふざけていなければ、身体が強ばって動けなくなってしまう。私なりに生き残るための算段をしているのだ。


「…姫は我々のもの」

殺意を含んだ声と血の雫が伝う剣先が向けられと、庇う背中に緊張が走った。

「捕らえよ!」

複数の足音とともに剣戟の音が響いた。

砂埃が舞い上がり、真緒は咳き込んだ。咳き込みもかき消す喧騒はひとときの激しさの後、すぐに終息した。

猿轡で塞がれた咳き込みは想像以上の苦しさだった。治まる頃には息も絶え絶えで、一層意識が飛んでくれたらと願ったくらいだ。ずっと庇ってくれた背中にもたれかかれば、それは簡単に崩れた。


「早く 医務室に運べ!」

朦朧とした意識が、その声の主を認識していく。

「大丈夫か?」

ローブが切られ、猿轡が外されてようやく自由を得た。ふぅ、と自然に息が漏れた。

「…ライル…」

助かった安堵よりも、こんな状況に陥ってしまったことが後ろめたく、気まずさに視線を逸らした。

「見るんだ」

口調は静かだか、厳しい声色でライルは真緒の身体を運ばれる騎士に向ける。

「自分の行動が 誰かを危険に晒すんだということがなぜわからないんだ」

ため息と共に放たれた言葉は、真緒を突き放した。

「…お前は国王の娘であり、渡り人なんだ。護るために生命をかけるものがいることを忘れるな」

そう言うと、真緒に背を向け足早に立ち去っていった。指示を出す後ろ姿が霞む。

泣いちゃいけない。

確かに ライルの言う通りだ。

でも 私らしくいたい、そう思うのはいけないことなの?


なぜこんなにも 苛立つのか。

立ち去る前に視界の隅に映った真緒の肩が少し震えていた。泣いていたのだろうか?

襲われて怖い思いをしたのに、優しい言葉のひとつもかけられなかった。自己嫌悪に更に苛立ちが募る。


時間がほしい

そう告げたのは自分だ。マオが絡むと我を失う。


護りたい

誰にも 触れさせたくない

俺だけだ

俺だけのもの


このままでは 嫉妬に駆られて 閉じ込めてしまう。

己の中にこんな激しい感情があるのだと、知った。

こんなにも激しく深い感情を マオは信じていなかった。

想いが疑われた事実が、胸を締め付ける。

大きく息を吐く。

茂みに潜んでいた者たちの捕獲も終わったようだ。

そっと振り返れば、真緒はもう居なかった。

今頃は王妃宮に戻っているだろう。


見えない姿に ほっとする。

まだ 冷静では居られなそうだった。



周囲の警邏強化を指示して、庭園に向かう。

東屋を抜け、庭園内を死角がないか確認しながら歩く。

サウザニアから暗部の人間がエストニルに潜んでいる情報は掴んでいた。王の警護だけでなく、マオを狙ってのものだろう。フロイアスを狙う一派もあるため、気が抜けない。

王族の警護の中に、サウザニアの手が潜んでいた事実は見過ごせない。早急に対策を立てる必要がある。


「ライル様」

思考を遮る声に、眉間に皺を寄せ振り返った。

淡い黄色のドレスは栗色の柔らかな巻き髪によく似合う。薔薇の蕾のように膨らんだ唇は 露を帯びたように艶めいて、そよ風にのって甘い香水の香りがライルに纏わりつく。

「テルロー公爵令嬢」

形ばかりの礼を取り、ライルはすぐに背を向けた。そんな態度をものともせず、気配が近づいてくる。

「…どうぞシェリアナ、とお呼びくださいませ」

そっとライルの袖に触れ 上目遣いの視線に、悪寒が走る。

「父にお願いしましたの。サウザニア王滞在の間、ライル様に護っていただきたいのです」

怖いのです、ギュッと袖を掴む手に力を入れ そっと身体を寄せる。計算された仕草が ライルの苛立ちを加速させた。

「任務中ですので、これで失礼します」

サッと擦り寄る身体から距離を置き、腕を軽く払う。

甘い香りが鼻につく。

身体を寄せられ、反射的に払ってしまった。


マオと違う

包み込むような優しい甘い香りは 作られたものじゃない。

彼女(マオ)の内から放たれる香りは 心を落ち着かせてくれる。


彼女以外に 触れられたくない、そう思った。


振り返ることなく その場を後にした。


ライルも公爵家の子息だ。

以前よりテルロー公爵家との婚約の話があるのは知っている。兄も家同士の繋がりで結婚した。自分もそうなるのだろうと受け止めていた。

でも、

マオと出会ってしまった。


マオ以外 考えられない ━━━━━━


そもそも 正式な話では無いのだ。

政治的な思惑が絡むと厄介だが、宰相である父に公に異を唱えるものは皆無だ。


国王の娘を娶るためには、ただの近衛騎士では駄目だ。公爵家の次男、それでは足りないのだ。


己の気持ちも 立場も 中途半端だな


風が指をすり抜けていく

マオもこの手をすり抜けてゆくのだろうか…


思わず 拳を握りこんだ。

















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