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203.吐露

結局、テリアスは真緒を横抱きにしたまま 降ろしてはくれなかった。屋敷の灯りが見えてきて、真緒は絶望的な気持ちになった。

「…店を手伝わないと…」

だから宿屋に帰して。無駄だと分かったいても、一応お願いしてみる。

「安心しろ。手伝いは手配してある」

用意がいいことで。ということは、この拉致は計画的だったってこと?人が悪いったら無い。

「…会いたくない…」

誰に?もちろん ライル にだ。

飛び出した 真緒の本音に、テリアスは やはりな と呟いた。

「おかしいと思っていたんだ、何があったんだ?」

胸の奥がチクリと痛んだ。鼓動も呼吸も早くなってゆくのが分かる。意識的に深呼吸して呼吸の乱れを整えることに集中する。

「…まぁ、いい。ちゃんとふたりで話すんだ」

屋敷の門をくぐれば、騎士たちからの視線が痛い。

「逃げないから、お願い、降ろして…」

荒い息遣いの中、掠れる声でお願いすれば、やっとテリアスの腕から解放された。それでも、真緒の腕を掴む力は緩まない。テリアスに引きづられるように、回廊を進み、中庭を突っ切っていく。

「私は外で待っている。ちゃんと向き合ってこい」


テリアスに背を押された先は、ライルの居室だった。

年頃の娘を若い男の部屋で二人きりにするのか…っ!

逃げ出したい一心で 視線を送るが、テリアスの真剣な顔は変わらない。腕を組み、通路を塞ぐ姿勢を崩さないテリアスに、真緒も覚悟を決めた。

一度落ち着いた呼吸が再び乱れてくる。


ノックしようと扉に手をかざした時、外開きの扉が開いた。咄嗟に後ずさった真緒の身体を、ライルの腕が引き寄せた。そのまま扉の中に抱き込まれ、真緒の身体は自由を失う。背中越しに扉が閉まる音がした。

「…マオ…会いたかった…」

くぐもった声が、真緒の耳元を掠める。抱き込まれた身体は身動ぎも許されず、胸に押し付けられて、息が吸えない。ライルの鼓動が、早鐘のように打つのがわかる。背中の手はゆるりと髪に触れ、短い髪を梳くように撫でてゆく。昂る感情のまま 強く抱かれ、真緒の身体は軋んだ。

「いっ…」

悲鳴にも似た真緒の声を唇が塞ぐ、

後頭部を抑えられ、その唇から逃げることができない。空気を求めて開いた唇は強く吸われ、真緒の意識を奪った。


腕の中で力なく崩れるる真緒の姿に気づき、我を失っていたと知る。

廊下の気配に 扉を開ければ、視界に飛び込んできたその姿に、理性が飛んだ。

その存在を確かめるように、抱き締めた。華奢な身体はこの腕をすり抜けてしまいそうで、不安を煽る。

顔を髪に埋めれば、彼女の匂いがした。

もっと!もっと!

彼女を感じたくて、抱く腕に力を込めれば少し開いた唇から声が漏れた。

堪らずその唇を塞いだ。強く吸い、求める。


言い訳は聴かない

俺を避けた罰だ

お前は 俺のもの 逃げるなんて許さない



口腔内に冷たい水が伝う。

唇に触れていた温もりが離れて、よりその冷たさが引き立てられた。喉に流れてきたそれが溢れ、真緒はむせ込み 覚醒した。

背を起こそうとして、抱き込まれていることに気づく。カウチソファに添い寝をするような姿勢でしっかりとホールドされた身体は起こすことができなかった。

「くっ、苦しい…、離し…て」

むせ込みながら懇願すると ようやく腕が離れ、真緒は上体を起こした。しばらくすれば咳き込みも落ち着き、ようやくまともに息ができた。

深呼吸をゆっくり繰り返して、息を整える。

それは 気持ちを落ち着かせることにも役立った。

上体を起こし、カウチソファの背もたれに寄りかかるライルは後ろから真緒を抱き寄せた。

「…陛下のこと、父上からきいた。今、マオが置かれてい状況もだ」

真緒の髪を顎で弄る。そのたびにかかる息が真緒の鼓動をはね上げる。

「…なぜ、俺を頼らない?俺は … そんなに頼りないか?」


なぜ?

それを貴方が言うの?

この世界に私を繋ぐ役目だから、大切にしてくれたんでしょう?


貴方の優しさは

囁かれた 愛しい言葉たちは

見つめる あの眼差しは


全て 私をこここの世界に 留めるための 手管…

私…知ってるんだよ…


「答えて、マオ」

何も答えない真緒に 痺れを切らしたライルは、真緒の身体をカウチに縫いとめた。視界いっぱいにライルが映る。月光を背に受けたライルの表情は分かりづらい。ただ、逸らすことを赦さない鋭い瞳が真緒を捉えていた。

顔の脇に置かれた両腕は、鳥籠のように映った。


私は このひと(ライル)に囚われたんだ


この世界で 一緒に在りたいと思った ひと

私の気持ちを利用して、想い合うフリをして、

そこまでして 必要なの?

私という 存在 が ━━━━━


「━━ おい、聞いているのか? 答えろ 」

その言葉にライルの苛立ちが伝わってくる。

「誰かに 何か言われたのか? 俺を避ける理由はなんだ? ━━━ 俺が嫌か?」

唇を奪われそうになり、咄嗟に両手で胸を押し返した。その腕を捕まれ、真緒は力の限り抵抗した。ライルのブラウスははだけて、胸に巻く包帯が見える。

男に上から押さえつけられたら、力では敵わない。

ライルによって両手はカウチに縫い止められ、上から見下ろされる形になり、真緒は抵抗を辞めた。


「…火傷…」

「…もう心配はない。元々酷いものでは無かった」

真緒の呟きにライルは答えてくれた。ライルの手は緩まないが、彼も冷静になろうとしているようだった。

互いの視線を絡ませる。

「俺を 拒むな…」

熱のこもった吐息と共に紡がれた言葉は、口付けと共に真緒を縛る。

重なる身体にライルの重みを感じ、真緒は身体を固くした。


ねぇ…それも 繋ぎ止める手管なの…?

そんな 切ない口付けは 反則だよ…


涙が溢れ出すが、拭うことも叶わない

ライルの唇が瞼に落ちる


もうやめて そんな優しくしないで


「頼む、教えてくれ…」

切ない声が 真緒の胸を抉る。


周りの優しさが、繋ぎ止めるためのものだって感じた時でも、ライルだけは違う、そう信じてきた。


でも、聞いてしまったの

貴方の声が語る 誘惑の術を。


真緒の耳朶に唇を寄せ、甘い吐息が思考を 鈍らせる

柔らかな感触は、首筋を食みながらデコルテを愛撫する。堪らず声が洩れて、悦びを感じている自分に嫌悪した。


「嫌…、や…やめて…」

乱れた声を押さえようとすれば、声が震えた。


「…なぜ?」

答えて。ライルの唇が肌をなぞりながら言葉を発すれば、悦びを増す自分が許せなくなった。


「ライルは…、貴方は…、私のこと 好きじゃない!」


ようやく口から紡いだ言葉は、嗚咽混じりで 口にした自分でさえ、何を言ったのかわからなかった。一瞬で動きを止めたライルは、真緒の瞳に鋭い視線を向けた。怒りのこもる瞳は 苛立ちを含み、真緒を縛る腕は強く握りこまれた。


「…もう一度 言ってみろ」


その声色に 恐怖すら感じる。

でも、逃げられない。


「…私を この世界に繋ぎ止める役目なんでしょう?私の想いを利用して、愛を囁いて…、この国に繋ぎ止めるために優しい言葉をかけてくれたんだよね。…もう そんな事しなくてもいい。帰りたくても、帰れないんだから」


━━ 言ってしまった…


でも、本当のこと。

大切な貴方だから、気持ちのない行為から 解放してあげたい。


「…もう 無理して偽らなくていい。私は 大丈夫」


上手く笑えたかな?上手く サヨナラできたかな?


見つめたライルの瞳の深い青紫が揺らめいた。

睨み合うように視線を交わす。


怒りのこもる瞳。

ああ、今 私に向けられているこの瞳は 本物なんだね

偽りの愛情よりも ずっと いい

私を ちゃんとみているんだもの…


「…それが 理由か? 何故 そうなるんだ?

…俺を 信じられないのか…?」


唸るような低い声は 独白のようだった。


視線で人は 殺せる

そう 思えるほど 殺気を孕んだ視線に射貫かれて 真緒は金縛りにあったように動けなかった


「俺を 疑うのか…

お前は 俺のものだ。 誰にも 渡さない

━━ 言葉で理解できないなら 身体で覚えろ…」


こんなに負の感情を顕にするライルは 初めてだ

自分に向けられた偽りのない感情に 喜びを感じてしまうなんて。

恐怖すら覚えるこの状況に悦びを得ている自分に、笑みが零れた。


「…っ!」

ライルの腕に一層の力がこもったとき、胸元に痛みが走った。食む唇が肌を強く吸い上げる。

雄のオーラを発し、怒りに欲情の色を乗せた瞳が真緒を捕らえた。


拒絶の言葉は、奪われた唇に吸い込まれた。

身を捩り抵抗するが、一括りに絡められた腕は 強い力で拘束されて抜け出せない。

ライルの手が、身体のラインに沿って滑り、荒々しく愛撫する。


嫌…!

こんな形で こんな気持ちで 結ばれるのは … 嫌!


でも、とごかで 自分の想いが報われることへの悦びがあることに気づいてしまった。


与えられる激しい口付けの息苦しさに、思考が奪われていく。



━━━━ 突然のノック音に、それは遮られた。


「…ライル、父上から 緊急の招集がかかった」

テリアスの緊迫した声が、ふたりを現実に引き戻した。























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