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194.前触れ

部屋から庭を見下ろせば、煌々とたかれた松明と、警邏にあたる騎士たちの動きが 物々しい雰囲気を醸し出していた。

カーテンを閉めて ソファへと向かえば、そこには既に四人の人物が顔を突合せていた。一同を見回して、ライルはライックの隣に腰を下ろした。

「…ベルタでは、特に接触はなかったのだな?」

「あぁ。お前が寄越した近衛騎士たちだけだ。王子もベルタに留まるつもりはなかったようだ。すぐにここ(王家の庭)へむかいたいと言って休憩もろくに取らなかった」

「悪しきものを葬る 崇高な使命、か…」

ライックとヘルツェイのやり取りから話の流れを整理する。ビッチェル王子はここで何らかの接触を図るのだろうか。

「道中も接触なし、か…」

ヴィレッツが思案顔で呟く。

臣籍降下したとはいえ、王子を相手にするにはヴィレッツの存在は不可欠だ。最悪の場合も考慮し元王族のこの男は、国王から勅令を受けてこの場にいるのだ。

ナルセル王太子と同腹の兄弟であるビッチェル王子を処断することは避けたい。国王夫妻の実子であり、それを手に掛けたとなれば、国内外からの批判は避けられないだろう。なんとか未然に防ぎたいところだった。


「目的がわからないが、行動を見張るしかないでしょう」

テリアスの表情も硬い。

13歳の子供がやれることなど知れているが、王子の立場なら別だ。今は部屋で大人しく休んでいるようだが、気が抜けない。そわそわと両手を擦り合わせ、無意識に擦る。

ビッチェルと対面してから、手の甲が疼くのだ。

ライルと真緒が精霊の訪れから消えるとき、煌めく粒子が舞い落ちる雪のようにテリアスの拳に溶けた。仄かに感じる温かさは摩擦によるものとは思えず、はっきりと違和感として捉えられるほどだった。

テリアスは視線を感じ その視線に合わせれば、何か言いたげなライルに行き着いた。しばらく無言で見つめ合う。先に口を開いたのはライルだった。

「兄上…手をみせて頂けませんか?」

ライルの視線は、テリアスの手に注がれていた。テリアスの返事を待たず、ライルは席を立つとテリアスの元へと足を向けた。

不審な行動に目を向ける一同を意に介さず、ライルはテリアスの手を取った。ライルの指環に反応してテリアスの甲は仄かに発光した。

「…これは?」

ヴィレッツが眉間に皺を寄せて問いかける。

視線の集まった発光は すぐに収束したが、この場の皆がその現象を認識していた。

「惹き合いの石が反応したようです」

そう言ってライルは指環と首にかけられていたネックレスを掲げた。

「私が持っている指環は国王のもの。ネックレスはミクのものです」

そして、一同の視線はテリアスの手に集まる。

「…ライルとマオが精霊の訪れから消えるときに、私の手に青紫の光が吸収されたのです。王子と対面してから、なにやら疼くのです」

テリアスにも何でこのような現象が起きているのかわからない。


何かの 前触れ なのだろうか…?

渡りの樹に真緒は護られている。

真緒に何かを仕掛けることは不可能だろう。マオが姿を現さない限り、連れ去ることもできないのだから。

全員がスッキリとしない気持ち悪さを感じながら、夜も深まる中、話し合いは打ち切られた。各々が部屋を出てゆく。


最後に部屋に残ったのは、テリアスとヘルツェイだった。

テリアスはゆっくりとヘルツェイの前に進みでると、頭を下げた。

「すまなかった。私が未熟だったことで 謀反に加担させてしまった」

ヘルツェイは慌てることなくテリアスの両肩に手を置き、身体を起こすと、視線を合わせた。

「いいえ、私が諌めきれなかっとことが全てです。テリアス様が再びこうして過ごされている姿をみることができて嬉しく思います」

「…ヘルツェイ、私を許してくれるか?以前のように、私を支えてくれないだろうか…」

懇願するような視線を送るテリアスの瞳は不安に揺れ、自身の背中を必死で追ってきた幼き頃のテリアスと重なった。

「たとえ離れていても、テリアス様を支える気持ちに偽りはありません」

ヘルツェイは膝を折り、テリアスに騎士の礼をとり主に忠誠を誓う。テリアスも自身の剣をヘルツェイの肩に添えてそれに応えた。

改めて結ばれた忠誠の誓いを、月が見守っていたのだった。






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