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192.子守り

「傭兵のエドだ」

エド ━━━ ヘルツェイは意図的に凄みをきかせてビッチェルを見下ろした。


スタルスがヘルツェイの元に連れてこられたのは夜明け前だった。獣の多い谷へと続く森でビッチェルを探して彷徨い歩く姿を発見され、保護され連れてこられたのだ。

スタルスは かの国でビッチェルの世話係となった侍従だった。まだ20代だという男は、ビッチェルがサウザニア貴族の訪問を受けた直後に、かの国を突然飛び出したのだと語った。

たまたま馬で門を抜ける姿を見掛けて追ってきたのだという。馬を止めることなく走り続けるビッチェルの姿を見失うまいと、必死で追いかけて今に至るらしい。

暴走する馬と共に姿を消したビッチェルの保護を懇願する姿に嘘はなかった。

慣れない馬に乗り、必死に追いかけてきたのだろう。明らかに騎士ではない容姿の男に同情を禁じ得ない。

諌めきらず道を誤らせた自身と重なり、彼なりにビッチェルを大切に思っているようで好感が持てた。


ビッチェルの目的は分からないが、軽率すぎる行動の責任は取らせなければならない


現実をみてもらおうか…灸を据えなければな…



目の前の王子は、虚勢を張って尊大に見えるように仁王立ちしているが、子鹿のように震える足が全てを語っていた。

(…本当に幼いな。まぁ、虚勢を張るだけの気概があるだけマシか)

顎に手を当て 値踏みするような視線で舐め回すようにみれば、殊勝にも睨み返してきた。

「お前、私を護れ」

これからエストニルへゆく。護衛しろ。

諾 ありきで命令するビッチェルは断られるなど思ってもいないようだった。

「イヤだね、子守りは御免だ」

にべにもなく答えれば、焦った様子で詰め寄ってきた。

「私は王子だぞ!護衛できることを光栄な事だと思え」


…この王子は アホ なのか…?

呆れてものが言えない。なんでも思い通りになると思っているのか?

物言わず鋭い視線を向け続けるヘルツェイに、怒り出し、馬事雑言を浴びせるビッチェルだったが、言葉が尽きると気力を失ったのか、岩に力なく腰を下ろした。

「…私は…私は…いかなくてはならないのだ。王子として悪しきものに国や父上たちを好き勝手にさせてはならないのだ…」

頭を抱え、唸るように呟く。


悪しきもの?


「…どこに向かうんだ?悪しきものとは何だ?」

ヘルツェイの言葉に弱々しい声が返ってきた。

「王家の庭、と呼ばれる場所だ。そこに私の倒すべき敵がいる。これ以上は 言えない」


王家の庭?

サウザニアの貴族がビッチェルに何か吹き込んだのは間違いない。その情報を得て、ビッチェルはかの国を飛び出してきたのだ。

このまま放っておいても勝手をするのだろう。


「…わかった。その代わり条件がある」


その言葉に、パッと顔を上げ期待を込めたように目を輝かせたのをヘルツェイは見逃さなかった。

横柄な威圧的な態度をとっても、本質は温室の王子様なのだ。不安であったのだろう。

「俺の言うことは絶対た。獣や刺客からでも護ってやる。生き延びたかったら俺の言うことを聞いてもらおう」

いいな?

そう念押しすれば、ビッチェルは不承不承ながらも頷いた。


俺も 物好きなもんだな…


ヘルツェイはビッチェルの背中を見つめ、何度目かの溜息をついた。

まだ軍の訓練にすら参加していない年齢だかから仕方がないが、自然の中で生き抜く術を知らなかった。


水を得る

火を起こす

食料を狩る


ここに至るまで、どうやって過ごしてきたのだろう。

従者スタルスも、とても野営の知識があるとは思えなかった。

今までどうしていたのか問えば、荷は用意されていた、馬と共に無くなったがな、ビッチェルは事も無げに答えた。

用意された食料に馬。旅装が整えられた状態に疑問が浮かぶ。明らかに仕組まれたとわかるこの出国の意図は何であるのか…


王家の庭を目指す目的は何なのか、

伝書鳩を飛ばしながら、思考を巡らす。


王家の庭に向かうにはベルタの街を必ず通ることになる。やつら(サウザニア)が接触してくるとすればそこだろう。サウザニアの思惑がわかれば、対処もしやすい。


まだしばらくは 子守り だな …

ビッチェルの歳の頃には、テリアスは宰相の後継として大人の中に在った。如才ない姿は、歳よりも大人びてみせ、ときには痛々しく感じたものだ。

早く大人になることを求められたテリアスの姿を思い出し、同じしがらみを抱える立場にありながら この王子の奔放さに嫉妬した。
















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