19.未久の気配
国王一行は予定通り森の邸宅に向かっていた。
ベルタの街外れから イザは随行してきた騎士団と合流し、国王一行と共に邸宅へ向う。街道沿いに配置した部下からの報告を受けながら あと少しの行程が何事もないように警戒を強める。
騎士団の精鋭に囲まれながら国王を乗せた馬車が進む。
あれから18年も経つのに、国王を迎えることに強い反発心が湧く。イザは遠目に馬車をひと睨みするとかぶりを振り職務に集中しなければ と己を叱咤する。
今回はマオがいる。
例年通り早々に王都へ帰還していただこう、そのためにはトラブルなくスムーズに行程を終えてもらわなければならかい。
馬を走らせ、邸宅近くを警護している常駐の騎士団長に声を掛ける。白い髭が似合う年嵩の騎士団長は酒を飲み交わす仲だ。
「そろそろか?」
「ああ」
「今年もこの季節がきたな。今回は少し長い逗留になるらしい。昨日、宰相から連絡があった」
騎士団長は整列させた騎士と並び、その後ろに並ぶイザに告げた。なぜ?心がざわつく。騎士団長も理由は知らないようだった。マオのことが知られたのか?
不安が募る。
足に重い振動が伝わってくる。それに少し遅れて馬の嘶きや蹄の音がきこえたきた。
整列した騎士の前を馬車は進み、静かにとまった。
イザはマージオの意図が知りたくて、馬車から下りる
姿を盗み見た。悲しみを湛えた後ろ姿が今年は無い。威風堂々とした姿に目を見張った。
邸宅に入ったマージオを見送った騎士はそれぞれ持ち場へと向かう。立ち尽くすイザの肩を叩く者がいた。
「ご苦労だったな」
ライック師団長だった。数人の部下と先遣としてきている彼は一行のしんがりを務めていた。
「師団長、今回の逗留は長くなるのですか?」
イザは一番気になっていることをライックに尋ねた。
らしいな、ライックの答えは言葉少ないものだった。
ライックは何かを口にしかけて、辞めた。
訝しげにライックをみると、迷っているようだったがイザを見返し思い口を開いた。
「陛下が、ミクの気配がすると仰っておられる」
「!!!」
「…なぁ、イザ。街で連れていた娘、誰だ?」
言葉が出ない。ライックは何を知っている…?
「宿屋にいる娘は渡り人か…?」
間合いを詰めイザにしか聞こえない小声で話してくる。
「イザ、何を隠してる?」
イザは答えられない。タイミングよく部下がイザを呼ぶ。その場を逃げるように駆け足で離れた。
マージオは旅装を解き、楽な室内着に着替えると従僕を下がらせた。窓からは湖の一部がみえた。
帰ってきたよ、ミク。
左の人差し指にある指環に触れる。飾りのない金細工の指環は仄かに熱を帯びた。感じる、ミクの気配。
その気配に少しの違和感が混じるが、過ぎた時間がさせるものだと己を納得させる。あれから18年。一度も応えなかった指環が、2か月前、急に熱を帯びた。
歓喜に震えた。すぐに来たかった。
国王の身ではそんな自由は許されない。宰相に諌められ、速やかに政務調整をすること、宰相の息子カイルに調べさせることを条件に折れた。待った18年間よりも長く感じ、忍耐を必要とする2か月であった。




