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180/318

180.贖罪

室内に灯りは無い。月明かりだけでぼんやりとした視界の中、その人物に注視する。

「久しいな、テリアス」

目深に被ったフードを外し、月明かりに晒されたのは父・ニックヘルムだった。

ライックが続く。更にその後ろに影が動くのがわかり、つられるようにそれを視線で追った。その影はニックヘルムに並び立ち、倣ってフードを外した。

「…ライル…」

久々に会う弟だった。


「動くときが来た」

ニックヘルムはそう口火を切った。

ライックから話を聞いているのだろう。相変わらずの関係なのだと、妙なところに感心を覚えた。

「兄上、私はエイドルを救いたい。こんなことで犠牲になる必要のない者です」

あの騎士はエイドルというのか。言葉から察するにライルが目をかけている若い騎士なのだろう。

「…恋敵なんだろう?」

意地悪を口にしたが、ライルはそれ以上に得難い者なのだと苦笑した。

マオの親友ですし。エイドルを死なせたら、私はマオに合わせる顔がありません。

憂いを含んだ声色はライルの複雑な心の有り様を表していた。

「テリアス様、貴方はエイドルに顔が知れていない。明日からマオと、特に彼の護衛をお願いしたい。そして計画通り彼が神殿に連れ出すのをサポートして欲しいのです」

ライックはことの流れを説明し始めた。テリアスは幾つかの質問を入れながら、自らの役割を明確にすると、承知した、と諾の意を示した。

ふと、興味が湧いてエイドルという青年騎士について聞いてみた。

ライックは珍しく表情を曇らせた。

「ダンの息子です…ダンに息子殺しはさせたくない」

ライックの告げた事実は、テリアスを驚かせた。

ヘルツェイとライックを育てた男、ダン。

先王の時代、暗部を束ねた男。

先王亡き後、王位争いに嫌気が差してに野に下ったが、ニックヘルムが口説き落として迎えいれ、ヘルツェイとライックを始めとする(シュエット)の精鋭を鍛え上げた。

そして、マージオを国王にするために力を尽くして支えてくれた人物。ニックヘルムにとって同志であり、支えであるのだ。


「…もしエイドルがダンの手にかかることになったら、ダンを失うことになる。エイドルが奴らの手にかかったとしても、ダンは我々の元を去るだろう」

その事態は避けたい。ダンを失う訳にはいかないのだと、ニックヘルムは言い切った。父の信頼を得る人物は多くない。

「分かりました、期待に添えるよう尽くします」

テリアスは礼を取りながら、ダンを羨ましく思った。自分も父から信頼を得たい。惜しまれる人材でありたい。


静かに扉が開き、フードを目深に被った者が現れた。ニックヘルムに黙礼をすると、そのまま薄暗い寝室へと消えた。

「いくぞ」

ニックヘルムはフードを被り直し、出口へと足を向けた。フードの者が消えた寝室に目をやると、ライックがニックヘルムの代わりに答えてくれた。

「貴方の影武者です」


…そうか、そうだよな。

父上が来たことで、許されたと思ってしまった。

冒した罪は消えないのだと、改めて認識した。それでも、償い続けることが、ヘルツェイに罪を犯させた主としての責任のとり方なのだと思い直した。


父の背中を追う。

その横にライルが並び歩いた。

「ヘルツェイは、ユラドラ治安維持のための駐留部隊をまとめています」

ダンの娘でエイドルの姉と共に、活躍しています。

ヘルツェイの近況を小声で教えてくれた。

「姉上とシェルティーヌは今も屋敷で穏やかにお過ごしです。兄上は、ヘルツェイとユラドラに赴いている、そういうことになっています」

常に心の中に在る妻と子供の処遇は、父によって護られていた。まだ小さい(シェルティーヌ)は、もう言葉を話すのだろうか…。私を覚えているのだろうか


妻と娘に会うことは今後も ないだろう。

どうか穏やかに健やかに過ごして欲しい。

それだけだ。


エイドルを救うことで、妻と娘の穏やかな生活を願うのは烏滸がましいことだろうか。







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