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168.舞台裏の男たち①

ナルセルによる広場の宣言から遡ること数時間。


まだ星の輝きが失せる前、錆びた鉄の臭いが立ち込めるベルタの街の一角で、ナイザルは数人の男たちと後始末に追われていた。

「…なぁ、誰が殺した(やった)んだ?」

既にこと切れた者たちを荷馬車に乗せていると、ナイザルは問われて答えに窮した。

多くの者たちが、一太刀で急所を突かれ絶命しているのだ。剣を握る者ならば、その者の腕は太刀筋でわかる。

「俺もよく知らないんだ。こいつらは副団長の命を狙いに来たってことは確かだ」

「知らない?! 一緒に闘ったんだろ?」

「あぁ、味方で良かったよ…」

こんなの 敵わないわ…。ナイザルの呟きは本心だった。エイドルの親父さんだって言ってたな…、本当に何者なんだろう。とにかく只者じゃないことは確かだ。

「で、人数はあつまったか?」

ナイザルは話題を変えた。

ダンに指示されたこと。

この男たちにすり替わる一団を作ること。

「大丈夫だ。イザ副団長を殺されてたまるかよ」

親指を立て 任せろと気炎を上げた仲間の肩を叩き、頼りにしていると応えた。荷馬車は漆黒の森へ向かい出発した。それを見送り、一団を仕立てべく動きはじめた。


イザ救出に協力してくれる自警団の仲間をまとめ、水門の砦に近い外門にいた。ここに居るのは別団ではあるが、イザと親交があったり、慕っている若いもの達だ。20人前後は集まっただろうか。

ダンに指示されたこと。

水門の砦に向かったウェイザスの兵を殲滅し、水門の砦にいる襲撃の証人を護ることだった。

既にウェイザスの兵が発っている。

エイドルを先に砦に行かせて正解だった。

予想よりウェイザスの動きが早く、伝令が伝わるのに手間取ったハルトたちは出遅れていた。

「行くぞ!」

短く号令をかけ、騎乗すると男たちも続く。上手くすれば砦の手前で捕まえられるかもしれない。

ハルトはダンの期待に応えるべく、砦へと向かった。


その頃、エイドルは砦の隊長マルガと再会していた。

「なんだ坊主、戻ってきちまったか」

困ったような表情を浮かべ、エイドルの頭に手を置いた。

「隊長、ウェイザスの兵が来ます!」

エイドルは子供扱いされた気がして、頭の手を振り払うと、ぐっと胸を反らせ虚勢を張った。

分かってる、と目を細めてた。

「お前、ダンさんの息子だろ?一端の男になったな」

マルガは自身の息子を見るような優しい瞳でエイドルを見つめた。

「イザも俺もダンさんに面倒見てもらってた時期があるのさ」

だからその息子を、こんな馬鹿らしい闘いで失う訳にはいかないんだ、マルガは暗に 早く立ち去れ とエイドルに言った。

エイドルはマルガを正面から見据えた。

「その父さんの期待に応えたいんだ。父さんが動いている。この砦を護り隊長を連れてこい、そう言われてここに来たんです。もうすぐハルトさんが来ます」

ダンの名前が出たところでマルガの顔つきが変わった。エイドルはそれを見逃さなかった。

「副団長を助けるために、父さんは動いています!」

マルガはエイドルの強い視線に、同じく強い視線で返した。大きく頷くと、今度はエイドルの肩を強く握った。

「わかった。頼むぞ」

その一言がエイドルは嬉しかった。強く頷き返した。


水門の技師に護衛をつけてひと部屋に匿うと、砦の門へと向かった。先程と同じ顔ぶれだ。

見張り台の男は、多くの灯りが近づいてくる、と叫んでいた。マルガは砦の門を開けるように言うと、振り返った。

「じきに援軍がくる。それまで持ちこたえるんだ。死ぬなよ!」

そう告げると砦の外へ躍り出て、門を閉めろ!と怒鳴った。容易に門は開かない。背水の陣を引いた形になった。

「隊長は砦が襲われたことを証言する大事な役割があります。砦の中にいてください!」

戦う気満々のマルガに慌てて声をかけるが、 マルガはふん、と鼻を鳴らして応じなかった。

「阿呆か、こんな面白いもん、指くわえて見てられるか!」

「大丈夫だよ、隊長は何度殺しても死なねーよ」

周りの男たちまで、心配無用と笑い飛ばした。困惑するエイドルにマルガは豪快に笑った。

「安心しろ。ちゃんと心得てる。それにな、俺はダンさんに一度だけ勝ったことがあるぞ?」

腕前はちゃんとある、そうおどけてみせるマルガをエイドルは諦めの境地で見つめた。

…俺の周りって、どうしてこんな人ばかりなんだ…

ため息と共に黒目黒髪の少女が浮かんだ。


無事なんだろうか…マオ…


地面から伝う振動が、やつら(ウェイザスの兵)の到着を知らせてくる。5人の男たちは迎え撃つべく半円形に陣を構えた。

煌々とした灯りを先頭に兵軍は現れた。

ざっとみたところ30人は居ないだろう。装飾の施された騎士服の男が、この一団を率いてきたようだ。

後方の者たちが、戦慣れしていなさそうにみるのが救いだろうか。人数で劣るこちらとしては、手練が少ないのが救いだった。

「今からこの砦はウェイザス侯爵の管理下になる。貴様らは命に従え。従わなければこの場で処罰を下す!」

高圧的な態度でマルガに向けて言い放つが、当のマルガは鼻をいじり、頭を掻くと 欠伸までしていた。どこまでも舐めた態度で、口上は終わったか?と耳までほじっていた。

充分すぎる挑発に予想通り激怒した相手の言葉で戦い始まった。

穏便に済まそうなんて気はもとよりないのだ。

マルガの容赦ない剣さばきがそれを示していた。

「おい、何人か殺さずにおけよ。この派手な阿呆は俺の獲物だからな」

指名された派手な阿呆が 所詮叶う相手ではない。マルガに一刀だにされ地に伏した。手早く縛り上げ門へと投げつけると、見張りに預かっとけ、と怒鳴っていた。

エイドルは峰打ちで同年代の騎士を倒しながら、マルガのやりように舌を巻いた。貴族の兵と判る者の命は取らないが、殺しを生業にしているとわかるものには容赦なかった。見定めながら闘う姿に、自身の未熟さを思い知らせれた。

新たな蹄の音が、援軍の到着を告げた。

「エイドル!」

叫ばれた方に視線を向ければ、ハルトがヌキミの剣を振るい、まとめて数人を相手にしていた。

ハルトたちの参戦によって、一気に勝敗はついた。

ウェイザスの雇ったもので 生き残った者はその場から消えていた。

援軍によって捕獲されたウェイザスの兵は 荷馬車に乗せられていく。その作業の終わりを待ってベルタの街へと向かうのだ。

「マルガさん、なんで戦ってるんですか?エイドルから聞きましたよね?」

ハルトは渋い顔でマルガに苦言を呈したが、マルガは、肩慣らしだ、 と言って聞き流した。昔からこういう人なんだよな…、ハルトのボヤキが止まらなかった。














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