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152.想い合う力

朝日が登る。

その眩しさに目を細め、真緒は石版に寄りかかるように眠るエイドルをみた。

エイドルは夜の帳と共に現れ、他愛もない話をしながら夜を明かす。真緒が眠りに落ちるまで話しかけてくれる。

こんな状況でも真緒が取り乱すことなく過ごせたのはエイドルのおかげだった。

(手が届けば、日差しくらい防いであげられるのに…)

朝日を浴びるエイドルを護ってあげられないことが歯がゆかった。


石版の透明な檻は、暑さ、寒さは感じない。いつも真綿は包まれているような 浮遊の中に置かれている。それは光に吸収される感覚。

昼間は感じないが、闇夜の中では気を抜くと意識を持っていかれそうになる。

エイドルいわく、真緒がそんな状態の時は身体が透けていくらしい。イザとエイドルは、真緒が消えてしまうのが怖くて石版の近くで夜を明かす。そんな姿を見る度に申し訳ない気持ちになる。

(どうやったら出られるんだろ…)

光に吸収されたら出られるんじゃないか、と口にした途端、二人とも血相を変え、反論を許さない勢いで叱られたのだ。

もしかしたら…と思っているが、二人の姿を見れば実行する度胸は持てなかった。

目を覚ましたエイドルはマオの姿を確認すると、イザの所へ行くといって離れていった。


ひとりになり、体育座りで膝に顔を埋め そっとため息をつく。

また長い一日が始まる。


なんでこんなことになっちゃったのかなぁ…

ナルテシアさん、どういうつもり?

ライルのところへかえれるって言ったよね?


私、聞き間違えた?いや、そんなことはない。

地獄耳って言われるくらい耳はいいんだから!

やっぱり光に吸収されて、その先にいるであろうナルテシアに文句のひとつも言いたい。

こっそり昼間試してみようか?

夜限定ではない筈だ。


そんなよからぬ決意を固めたところに名前を呼ばれ、真緒は飛び上がるほど驚いた。あまりの驚きに体育座りのまま転がってしまった。

「━━━ マオ」

その声に、膝を抱えたまま固まる。横になった姿勢から見上げるその先には、いるはずの無い人。


少し痩せた?

羨ましい…そうじゃなくって!

精悍さの増した端正な顔立ち。朝日に輝く白銀の髪は憎らしいほどの美しさだった。

「…ライル…?」

なぜこんなところに…?マオは自分の格好も忘れて見惚れていた。会いたかった人がいる。夢みてるの?

「マオ?」

絵画から抜け出てきたような美丈夫は、眉を寄せて透明な壁に触れた。触れた手を中心に波状に光が揺れる。

あぁ、ライルは何かに気づいたように呟くと、懐から何かを探り掲げた。首から下げられていたその小袋は、明るい中でも発光しているのがわかった。

真緒は何故か分からないが、それに惹かれた。

手に取りたい、触れたい、そんな気持ちが湧き上がってきて、ライルの手に自身の手を合わせた。

「…ライル…それは、なに?」

「…オレよりも こっちの方が気になる?」

二人の手が合わさる場所にライルはその小袋を近づけた。

あれ? ━━ 手の感触?

目を見開き ライルを見つめると、イタズラが成功したかのような、輝く笑顔を向けていた。

「マオ、捕まえた」

その言葉と同時にライルの身体が透明な檻をすり抜けて真緒を抱きしめていた。

「!!!」

苦しい…でも 嬉しい。

ライルの香りに包まれて、マオの意識が遠のいた。それをライルの声が優しく呼び戻す。

「夢じゃないよ、だからマオ。俺をみて」

硬い胸、強い腕。耳に残る低めの声が真緒の耳元で名を呼ぶ。ライルの手が真緒の頬を包むと、そっと持ち上げた。

「逢いたかった…」

真緒の瞳は曇って見えない。次から次へと溢れ出る涙に邪魔されて、ライルの顔が見えないのだ。悔しくてライルの背に回した腕で、服をギュッと掴んだ。


「━━ そろそろいいか、お二人さん?」

このナイスボイスは、イケオジ・ライックだ!

腰に手を当て、あきれたように見つめている視線とぶつかり、真緒は恥ずかしさにライルから勢いよく離れた。それが不満だったのか、ライルは明らかに不機嫌そうな顔になって、マオを腕の中に閉じ込めた。

そんな二人のやり取りに触れることなく、真面目な声で告げた。

「来るぞ。あと半刻くらいだ」

ライックの言葉にライルの顔つきも変わった。気づけば、山神の男たちの動きも違う。緊張を孕み、武器を手に動いている。

「大丈夫だ。マオのことはオレが護る」

頭上から響く声が安心をくれる。

「━━ できる限りあいつをこの石版に引き付けてくれ」

ライルが恐ろしいことを口にした。

どういうこと?

ライルが透明な壁を抜けられたということは、イヴァンもこれを破る可能性があるんじゃないの?

真緒の不安が伝わったのか、ライルは、心配ない、と髪を撫でた。そして 真緒の手を取ると、その手に小袋から取り出し載せた。

濃い青色の石は、真緒の手で眩く輝いた。仄かに熱を帯び、あのペンダントよりも強くライルを感じた。

「これは惹き合いの石。俺とマオの真名から生み出されたもの」

ライルの手が、真緒の手を石ごと包み込む。

二人の手が重なり合うとき、一層輝きが増し、熱を帯びて熱いくらいだった。

「渡りの樹から生み出された 俺たちを惹き合わせるものだ。この石の力は 石版の防護の壁を通してくれた。でもね、これはお互いが同じ想いを持つことが必要なんだ。

だから、オレを信じて」

感じる、石の力。 ライルの想い。

真緒もその石に想いを込める。

ライルと共に。どうか 私たちを護って。



剣戟の音に混じり、蹄の音や怒声が遠くに聞こえる。

始まったのか?

真緒が身体を硬くして身構えれば、ライルが背を撫でてくれる。

信じよう。

きっと乗り越えられる。この人と生きていく。

そう決めたのだから。







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