147.星空の下で
(この空間は時間が止まっているのかな…)
もしかしたら、あの光の空間と同じなのかもしれない。こんなに時間が経っているのに、空腹感がないのだ。
暗くなり、草が刈られた場所に松明が炊かれ、山神の男たちが行き来している姿が見える。
私がここにいるから、みんな野宿になっちゃったの?何だか申し訳ない。交代で見張りに立つようだ。そんな中で、寝るのは後ろめたい。
体育座りをして、ぼんやりと松明を見つめていると、視界の隅に近づく人影があった。
「…エイドル…」
マオは先程笑ってしまったことの罰が悪く、視線を逸らした。
「…腹は減らないのか…?」
エイドルも気まずそうに 石版の近くに腰を下ろした。松明の影で表情は見えない。エイドルにとってそれは有難かった。
「…さっきは笑ってごめん。役目でやっていた事なのに馬鹿にしたみたいなっちゃった」
お腹は空いてないよ、それに続いて心の棘を抜きたくて、謝罪を口にした。
エイドルが首を振る気配を感じる。
「…いや。こっちこそ悪かった。怖かったんだろ、オレのこと」
あー、シールドに弾き返されたやつ?
真緒はすぐに思い当たり、エイドルが気まずそうなのはこの事なんだと気づいた。
「あのさ、本当に私は何にもやってないの。本当にどうしてこんなことになってるかわからないし。弾き返したのも私の意思じゃないよ」
顔みてホッとしたし。そう付け加えれば、エイドルが息をつくのがわかった。
「そっか」
短い言葉だった。でもその言葉から伝わったんだと感じ取れて 真緒もホッとした。
「さっき連絡が来た。ライル様、目覚めたって。少しずつ食事もはじめて、心配ないそうだ」
エイドルの話は真緒が一番聞きたかったことだった。胸の奥から熱いものがり湧き上がり、瞼に熱が移った。瞬きを繰り返せば、涙が頬に伝った。
「…お前にも、そんな女らしいとこがあるんだな」
ちょっと!色々失礼ですけど?
「…悪かったわね、ガサツで」
慌てて涙を拭いながら 口を尖らせると、エイドルはそんなことはない、と慌てて否定した。
そのあとは二人で会話もなく星空を見上げていた。
しばらくそんな静かな時間が過ぎ、ふと思った。
エイドル、寝なくていいの?
「ひとりじゃ、心細いだろ」
素っ気ない返事が返ってきたが、真緒には充分だった。ありがとう、素直に言葉が出た。
「…なぁ、ライル様のどこが好きなんだ?」
エイドルの突然の質問に真緒はむせた。
なんてこと聞くの?
言い返そうとして、その声色が真剣だと気づき、真緒も真面目に考えた。
「うーん、なんだろうな…。でもこの質問、すごく恥ずかしいんだけど?」
そう誤魔化してみたが、エイドルは引かなかった。
仕方なく、真緒ももう少しか深く思考を進めた。
「この世界にきて、ずっと引っかかっていたことがあるの。私がミクの娘で国王の娘だから、優しくしてくれたり護ってくれたりするんだなって」
その言葉にエイドルがもの凄い勢いで食いついた。
「おい!お前陛下の娘なのかよ!」
あー、そこ気になる?
真緒が苦笑いを浮かべると、エイドルは、そりゃそうだろう!と呆れた口調だった。
「それ、それなのよ。私は私。
ライルは私をみてくれた。
周りはお母さんを知っている人ばかりだから、みんなにとって【ミクの娘】なんだよね…。
生命かけて護ってもらっているのもちゃんとわかってる。それでもお母さんの代わりでも、利用価値のある道具としてでも無く、私を必要として欲しかった。
ライルは私自身をみてくれた。…だからかな」
もちろん、みんなが道具とか思ってるんじゃないこともわかってるよ、慌てて否定する真緒は照れているのか慌てた様子で面白かった。
じゃぁ、オレは…?
オレだってマオをみてる
エイドルはその言葉を飲み込んだ。先に真緒が話し始めたからだ。
「エイドルはこの世界でできた親友。なんでもいい合える友達。こんなに言いたいことを素直に言い合えて、私にも遠慮なく バカ って言ってくれる相手はいないもん」
ルーシェは友達っていうより、お姉さんみたいなんだよね、
真緒の砕けた口調に、エイドルに苦笑が漏れる。
親友…
そうだな、それが一番合っているのかもしれない。
チクリと胸に刺す痛みが走り、イザに、真緒を好きか、問われたとこを思い返す。
オレがマオに求めたもの。
好意を向けて欲しい、そんな気持ちがなかったかといえば嘘だ、オレはマオを好きなんだと思う。
想い合う二人をみて、自分もマオと何か繋がりたかった。それが信頼を得ることだったのだろう。
相談して欲しい、頼りにしてほしい。
エイドルの気持ちを知る由もない真緒は、
もう少し 労りの言葉が欲しい、
バカとかないし、
だいたい女装が女の私より綺麗とか 有り得ない、
などなど…
言いたい放題だ。
自分が気持ちを向けるものにはストレートだが、人の気持ちには呆れるほど鈍感だ
でもな、そんな真っ直ぐなところに惹かれたのかもな…
イザの言葉を思い出す。まさにその通りだ。
「…ライル様にもそうやって話せばいいだろ?」
真緒は真面目な顔をして答えた。
「…言えると思う?無理だよ、ライルだよ?バカとかアホとか 似合わなすぎる。言えないわ…」
「…確かに…」
そこは同意見だ。同じタイミングで吹き出した。
声を上げて笑った。
これでいい。
この関係がちょうどいい。
エイドルは星空を見上げた。
いつもよりも星が 輝いていた。




