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144/318

144.懐かしい温もり

ノイアスの診察を受け、ライルはベッドで微睡んでいた。

夢の出来事ではない。

それは胸の華が教えてくれる。

脇腹は動けば痛みはあるが鈍いもので、動きを妨げるものでは無い。肩の傷も浅く問題ない。

問題は体力の方だった。

毒の影響で、深い眠りに落ちてから目覚めまで5日間。

ろくに水分が取れなかったことが、著しく体力を奪う結果となっていた。食事は喉を通らず、水分をこまめに摂るところから始めた。

倦怠感がライルの思考を妨げる。

それでも心が満たされた今を幸せに思う。


先程まで国王が座っていた椅子が目に入る。

診察のあと、見舞いと称してマージオが訪ねてきた。ライルは深い眠りの中での出来事を伝えた。ナルテシアの名前がでると、瞳を潤ませ祈りを捧げていた。そして、

「マオは かえってくる、そういったのだな?」

そのことを何度も確認して、ニックヘルムに強引に連れ出されていった。その姿は国王というより、娘を心配する父親の姿だった。父の心に触れた今なら、父親の心情が少しは理解できる。


(マオ、早く帰ってこい)


話したいことがある。伝えたいことが沢山ある。


胸元の華を指でなぞると、その柔らかい唇が蘇る。

再び、微睡みながら愛しい人のことを想った。



ライルの身体が消えたあと、真緒も光に呑まれて意識を飛ばした。

そして、再びの光の中で意識が浮上した。

もう三度目となれば あまり驚かない。

痛くも苦しくもなく、生きていればよし、だ。


ライルの魂は、無事に身体に戻ったのだろうか。

一緒に帰れると思っていたので、居残りになるのは想定外だ。大変不満である。


さて、私はなぜここに?


ナルテシアの意思が働いているのだろうか。

帰れるっていったのに…。

寄り道は好きじゃない、早く帰りたい。

そんな悪態をついて辺りを見回す。

方向がない空間。虹色の光が揺らめき、やわらかなそよ風が身体を包み込んでいたが、そんな心地よい空間よりも、ライルの傍がいい。


そろそろか…。いつもこのパターンで誰かが現れるか、何かが起こる。さぁ、こい!

気合を入れてイベントを待つが、何も起きない。

あれ?

もしかして…本当に閉じ込められたの?

ライルを助けた代償に、この空間の住人にされの?

…なんか話が違いません?


不安になってきたころ、可愛い笑い声がした。

━━━ くすくす、いたよ、うふふふふ

これは、神殿で聞いた声?

ってかの頭の中に声が直接響くのは なんだか気持ち悪い。こればっかりは慣れない…

━━━ あそぼう あそんで

声はするが姿はみえない。なんとなく自分を纏う何かが揺れている、そんな感触だ。

「…なに?あなたはだれ?」

その正体を探ろうと、真緒も手を伸ばし纏う何かを探した。まるでモグラ叩きゲームのようだ。

これがなかなか面白い。


『━━ 真緒』

いつの間にか夢中になっていたようだ。突然の声に身体が跳ねた。

『━━ 真緒』

再び名前を呼ばれ、その声に身体が震えた。

恐怖では無い、それは 悦び。この声は…!

「どこっ!どこにいるの!」

方向のない空間で、手当たり次第に腕を振り、その姿を求めた。

「お母さん!」

涙声で叫べば、纏う何かが風を受けたようにそよいだ。

『ナルテシア様が マオとの時間をくださったの』

そよ風が真緒の髪を撫でた。薄絹に包み込まれるような感触が真緒を包み込む。

(お母さんが抱きしめてくれているんだ…温かい…)

その心地良さに目を瞑る。するとより鮮明に母の温もりを感じられた。

『真緒、あなたに辛い思いをさせてごめんね』

ううん、真緒は静かに首を横に振る。

そんなことない。異世界とかびっくりしたけどね。

『マージオが あなたのお父さんよ』

本当に王子様?王様?でビックリしたよ。お母さんの物語は本当にあった話だったんだね。遠い目をして、色々ビックリな事実を思い出す。

━━━ たのしい わらってるよ うれしいの

可愛い声が賑やかになるのを、お母さんは優しく諭すと、心配する気持ちを声に乗せた。

『…この世界で生きていくのね?』

「うん!お母さん、私決めたの。ライルと一緒に生きていくって。向こうでは独りぼっちだけど、この世界にはお父さん的な人や兄弟姉妹もいるから』

だから寂しくないよ。

『渡りの樹と共に見守っているわ。私はそこにいる』

真緒を纏うものが 一瞬熱を帯び、失われた。

『真緒、私の真緒…』

声と同時に気配も消えた。急に温もりが消えたことで真緒は大きな喪失感に支配された。

「お母さんっ!」

思わず叫んだ。叫んだらより寂しさが込み上げてきて涙が溢れた。心の闇が滲み出るように、光の空間は輝きを失い、闇が支配していく。

まずい、止めなくちゃ!

闇に呑まれる空間を止めようと、真緒は涙を拭き心の闇を追い出すべく、愛しい人の笑顔を想い描いた。

左胸に手を当て、彼の鼓動を思い出す。互いの鼓動が段々と重なり、真緒の鼓動を強くした。


大丈夫…、大丈夫…!


私はライルの処へ かえる


どうか私を導いて━━━━━━


真緒の身体を闇が包む。

一条の光が、真緒を迎えた。

夢中でその光に向かって飛び込んだ。

その瞬間、閃光が走る。

眩しさに強く瞳を閉じて、身体を丸め、自身の鼓動に集中し、ライルの名を繰り返した。

言霊を信じる。

どうか ライルの元へ連れていって━━━━━



背中に強い衝撃を受けて、真緒は仰け反り悶えた。

痛いと思ったら、石版の上だった。

ナルテシアさん、それは無いんじゃない?

石の上に落とすなんて酷すぎる。

痛みが薄れてき痛むお尻と腰をさすり、ゆっくりと起き上がった。

ここどこ…?

はい、こらもお馴染みのセリフになりましたね。

深い森の中、人気はない。というか、何も無い。

本当に ここどこ?

ライルのところへ連れていって欲しい、とお願いしたんだけどね…いろいろと違うよね…

ため息が零れた。触れる空気や感じる身体の重みは、この世界に戻ってきたことを教えてくれる。

(…仕方ない、太陽が昇ったら村か街を目指そう)

まだ星が輝きを放つ夜空を見上げて、もうひとつため息をついた。

(感謝してるって言ってた割には扱いが雑よね…)

せめて人里に飛ばして欲しかった。遠くに獣の遠吠えが聞こえる。朝まで自分の身が心配だ。











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