14.目的
広い室内に暖炉の薪が爆ぜる音だけが響く。
外は風が凪いでいて草木の擦れる音も囁き程度だ。
ソファに身を預けグラスを傾ける。氷の中で琥珀の液体が遊ぶ。ライルは静けさの中で心地よい酔いに身を委ね目を閉じた。
胸をよぎるのは真緒の姿。黒髪に黒い瞳の娘。真っ直ぐな黒髪が風に揺れて思わず触れてしまった。
初めてみたのは月夜の夜。
胸騒ぎがして王家の庭に足を向けた。誰かに導かれているような感覚に支配される。渡りの樹に近づくにつれその感覚に強く支配され、自分の意思ではないものに突き動かされていた。
「ここ どこよ」
樹の向こうから声が聞こえてきた。戸惑いを含んだその声にランタンをかざし、近づいた。月明かりでも浮き立つ黒髪に一瞬で目を奪われた。
大きく爆ぜる音がして、ライルはゆっくりと瞼を上げた。先遣の他に、ライルには別の目的があった。父である宰相からある人物の捜索を命じられているのだ。
王の想い人、18年前に姿を消した未久の消息と真実を明らかにすること。
未久という女性は美しい黒髪に黒目だったという。
王は未だに彼女を想い、彼女の消えたこの季節に王家の庭を訪れ、あの湖畔で時を過ごすのだ。
あれから18年もの月日が経っているというのに何故捜索が必要なのか。ライルも話を聞いた時は首を傾げたが、王が 未久の気配を感じ取っているという。
乗り気ではなかったが、ベルタの街に到着するとなにかに呼ばれているようで胸騒ぎが止まらず、王家の庭に通うようになっていた。
未久との面識はない。真緒と共通するのは黒髪黒目の外見だけなのに、何故だろう。あの娘に未久が重なった。そしてそれは彼女が残したキャンパスによって確信に変わった。
ライルはキャンパスを手に取り裏返す。
木枠の隅に並ぶ薄れた文字をなぞる。
《マージオ》
それは王の名前だった。
何故それを真緒が持っていたのか。埋めようとしていたのは何故なのか。
より真緒への興味が深まる。お前は何者だ…?
一気にグラスを煽りひと息に飲み干す。焼けるような熱が喉を刺激する。
気になのは真緒と街にいたイザという男…。
ライック師団長が騎士団で目をかけていたが、未久が消えた日を境に退団した。真緒を保護しているようだが、どういう関係なのだろうか。
空のグラスを指で弾き、思案する。
明日 真緒はくるだろうか
腕に抱いた柔らかい感触を思い出し、目を閉じる。
真緒の香りと心地よい酔いがライルを夢に誘った。




