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137.残酷な真実

深更━━

遠くで梟の声がこだまする。ベッドに埋もれながらも神経を研ぎ澄まし、周囲の気配を探る。

人の動きがないことを確認すると、そろりとベッドから起き出した。身体にフィットするスラックスをはき、シャツを羽織る。

室内ばきではなく、編上げのしっかりとした靴を履きテラスへと向かった。

昼間護衛についていたエイドルは、今晩は交代している筈だ。良心が痛まないわけではないが、不安な気持ちをそのままにできなかった。

(ごめん、エイドル。確かめたら戻るから)

手すりに足をかけ、昼間の要領で木に移る。宴から3日経つが、警戒のために敷地には松明が、夜通し炊かれている。薄暗くはあるが、漆黒の闇を移動するよりは恐怖心が薄れた。


いくつかの木を渡り、警邏の騎士が行き交うのをやり過ごして離宮の近くまでやってきた。

離宮の警備は、本邸ほどではないが忍び込むのは真緒にとって難しそうだった。

どうしよう、ここまで来たのに…。

木の影からそっと別邸を伺う。忍び込む心得はない。誰かに紛れて忍び込む?騎士を襲って勝てる気がしない。侍女?この夜中にいるかな…。

うーん、そもそもどうやって侵入するか考えてなかった。

こういうときに異世界補正 働かないかな…。ヒロインでなくてもそれくらいの特典は許されるんじゃない?

どんなに考えても名案は思いつかない。最後は愚痴っぽくなってしまい、考えるのをやめた。


「…そろそろ いいか?」

その声の主は、真緒の両肩に手を置いて力を込める。

「昼間、部屋を抜け出していただろう?今晩あたりだろうって思ってね」

待ってたんだよ、ライックはその手に力を入れて真緒の身体を反転させた。月明かりに照らされたライックの笑顔は迫力満点だった。

「エ、エイドルは関係ない、です」

思わず庇った。勝手に抜け出したのは自分だ。

「昼間の脱走に続き、夜も見逃したとなると、彼はもっと頑張らないといけないな」

うわぁ…、エイドル、なんだかごめん。

ライックの笑顔 怖い。真緒は取り敢えず心の中で謝っておく。

「真実が知りたいか?」

ライックの真剣な声色に周囲の空気が変わった。真緒も真剣な面持ちで頷いた。


ライックに連れられて、ある部屋へと入る。

月明かり照らされて中央にあるベッドが浮かびあがる。そこに横たわる人影が真緒の鼓動を早めた。

喉元に鼓動を感じる、心臓が口から出そうだ。脳内で警鐘が鳴り響く。

行ってはダメだ。見てはダメだ。

止まりそうになる足を無理矢理動かして、ベッドサイドに立つライックに並んだ。

「あの夜から目覚めないんだ」

自身で押さえた口元から悲鳴が漏れる。真緒は膝から崩れ落ちた。

「イヴァン殿下を追って、マオを助けに向かったんだ。そのときに刃に倒れた」

ライックは努めて淡々とした口調で続けた。

「傷は浅い。既に回復してしている。ただ、その刃に毒が使われていたんだ。解毒剤は間に合った筈なんだ」

そこに横たわるのは、青白い陶器のような肌に色のない頬、唇は乾いており、固く閉じた瞳は窪み、濃い陰影となっていた。

それは真緒が初めて見るライルの姿だった。震える手で、その頬に触れれば、ひんやりとした感触に身が震えた。

「高熱が続いて体力低下が著しい。意識が戻らないから、脱水も進んでいる」

「━━━極めて危険な状態だ」

ライックの言葉は死亡宣言に等しかった。


何を言ってるの…?

ライルが死ぬ…?

そういったの…?


両手でライルの顔を包む。

ひんやりとした感触を打ち消すように、真緒は自分の熱を分け与えた。

「…ライル?ねぇ、起きてよ。目を開けてよ…」

真緒の涙が頬を伝い、視界がぼやける。

「目を開けてっ!ねえ!」

ライルの肩を揺すり、頬を張る。ベッドに乗り上がり全身で揺するが、ライルは眉ひとつ動かさなかった。

絞り出すような呻き声に似た叫び声が、真緒から放たれる。その叫びはライックの胸を抉った。

しがみついて泣き続ける真緒の姿が、ライックを責める。もっと早く追いついていれば。

「…朝、迎えに来る」

かすれた声でそれだけ告げると、部屋を後にした。

閉じた扉の向こうから、真緒の悲痛な叫びが漏れてくる。


長い夜になる


想い合う二人を合わせてやりたかった。

マオのため覚悟を決めて進み始めていたライルを、ひとりで逝かせたくなかった。


今宵限られた時間でも、二人の時間が満たされるように願わずにいられなかった。





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