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13.母と同じ

酒を楽しんでいた泊まり客も各々部屋へ引き上げ、夜もだいぶ更けてようやく片付けが終わった。

最後の床掃除を終え、真緒は軽く息を吐いた。

「マオ、お茶でも飲まないかい」

マルシアがカップを両手に持ち、顎だけで さぁ座って

と示した。昼間のこともあり、いつも以上に疲れていたので有難くいただくことにした。

マルシアは真緒の正面に座り、ゆっくりカップに口をつける。真緒も倣った。カップからは湯気と共に甘い香りが漂い、優しい香りにホッとする。

「…昼間、何かあったのかい?」

今日は手際が悪かったからさ、ちょっと心配になったのさ、口調はさり気ないがマルシアは探っているようだった。自分では変わらないつもりだったが分かるものなのだろうか。

ライルのことをどう話していいのか思いつかず、あの場所について聞いてみる。

「あの…、渡りの樹と湖はお母さんにとって大切な場所だったんですか?お母さんが大切にしてた絵があの場所に似ていたから…」

「マオ、昼間 森へ行ったのかい?」

驚きもせず聞いているところをみると、マルシアの予想の範疇だったんだろう。真緒はコクンと頷いた。

「約束を守らなくてごめんなさい。お母さんとの約束を果たそうと思って」

「ミクとの約束?」

マルシアの片眉が上がった。

真緒は母との約束について話した。それを果たすため渡りの樹へ行ったこと、そのときに絵があの場所を描いたものだと気付いたこと。

マルシアは知っていのではないだろうか。母があの絵を大切にしていた理由を。真緒はマルシアをみつめた。

マルシアは静かな声で 話し始めた。


━━━あの湖畔で未久は出会ってしまった。

唯一の男性(ひと)に。

その男性と恋に落ちて、あの湖畔でひとときを過ごした。その男性はこの国の王子。

他国との政略結婚の話が持ち上がり、未久は身を引くようにこの世界から消えてしまった。

「私は大切なものをもらったから」

そういって笑って、エストニル王国の平和と王子の幸せを祈って渡りの樹に消えた━━━


「あのとき、この国は同盟を必要としていた。王が崩御して次の国王を巡って国も荒れてたのさ。この国を手に入れるチャンスと企む国もあった。戦争の危機を婚姻で同盟国を得ることで避ける必要があったんだ。

だからってミクを切り捨てたのは許せないんだよ」

マルシアは話し終えると、手にしたカップをギュッと握り締めた。静かな怒りが伝わってくる。

「あそこはミクにとって幸せも絶望も味わった場所なのさ」

母のことをこんなにも大切に思ってくれる人がいる。だからこそ、母の姿を伝えなければと強く思った。

「マルシアさん。お母さんはあの絵をよく見つめていました。それはとても幸せそうに。最後のときまでそばに置いて」

真緒はマルシアの手を両手で包んだ。

「この世界のこと、マルシアさんのこと、王子様のこと、沢山話してくれました。その瞳はいつも輝いていて幸せそうでした。だから私は、お母さんの話が大好きでした」

「辛いこともあったんだろうけど、きっとお母さんにとってこの世界は素敵なところだったと思います!」

そうだよね、お母さん!


涙ぐんだマルシアの背を撫でながら ライルのことを想う。母には大切なひとがいた、私と同じだね…

ん…?私と同じ…?自分の呟きに驚いて手が止まる。

私きっと顔真っ赤だ。


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