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129.役者は揃った

18年前、王位争奪の荒廃から立ち直れていないエストニルをユラドラは簒奪しようとした。

その侵攻を察知したニックヘルムは隣国のサウザニアへ婚姻による同盟を画策したのである。

そして、第一王女であるアルマリアを王妃として迎えた。

エストニルは肥沃な国土を有し、国境を覆う山脈は自然の要塞であるだけでなく、鉱物資源に恵まれている。サウザニアの資金援助を受け 鉱物資源産業の発展に力を入れたことが、短期間で国力を回復できた要因だといって過言ではない。

サウザニアはアルマリアの実兄が王位に就き、鉱物資源を優先的に輸入できるなどの利点を活かし、軍事力を高め列強国に名を連ねていた。

そんな国にも悩みはある。

まだ王太子が決まっていないこともあり、現王の後継争いも絡んで水面下で政権争いが激化していた。まるでかつてのエストニルのようだった。


サウザニアで力をもつにはエストニルからの後ろ盾は必至である。鉱物資源を有利に得る者は国益に影響力を持つ。そのため、利を得ようとする母国の貴族、それらと有利に繋がりたいこの国の貴族たちがアルマリアを取り巻いていた。

ユラドラの一件では、ビッチェルを王太子に推す一派が前ユラドラ王と結託し、マージオ暗殺を企んだ。

そのときビッチェル派に資金援助したサウザニアの貴族は、その失敗で本国での地位が失墜した。それを取り戻し政権に返り咲くために画策されたもの━━━


山神の使いを傘下に引き込み、鉱物資源を占有する

それを手土産に 現国王の異母弟ハウライトに取り入るのだ。ハウライトは国王の座を狙う者のひとりなのだ。エルート侯爵はその取引材料にナキアをを拉致したのだった。


山神の娘・ナキアが我が手中にあることに、エルートはほくそ笑んだ。スライト商会の遠縁の娘がサウザニアに嫁入りする。それを隠れ蓑にサウザニアへ拉致し、脅しをかけて交渉を有利に運ぶつもりなのだ。

ナキアを花嫁に仕立て、ベルタの街に置かれた監視をくぐり抜けた。このまま、王家の庭を通り真っ直ぐサウザニアに向かう予定であった。

ところが、王家の庭に滞在する王妃が、母国へと嫁入りする娘をぜひ祝いたいと、スライト商会を通して伝えてきたのだ。

アルマリアの機嫌を伺う貴族は派閥を問わず多かった。そのため、個人的に近づくことは難しく、アルマリアの母国とはいえ、他国の貴族であるエルートは、ヤーコルという後ろ盾を失ってから特に機会に恵まれなかった。

これはチャンスだ。

王妃アルマリアは政治的な発言力も強く、味方にできればこれ程有利なことは無い。実兄であるサウザニア王とは仲が良いとはいえない、と聞いている。手土産がまたひとつ増えた、エルートの機嫌はうなぎ登りだった。


予定を変更して、王家の庭の邸宅へと向かう。

ナキアは薬で眠らせている。アルマリアには本物の花嫁を会わせれば良い。謁見にそれほどの時間はかからないだろうと読んでいたエルートに、嬉しい誤算が生じた。

【宴を催し歓待する、邸宅で休まれよ】

王妃からの言葉を告げられたエルートは、内密な話があるからだ、と耳打ちされ更に気分を良くした。

(力のある者は同じ力を持つものを見分けられるのだな)

なんとも都合の良い解釈をしたエルートは、本物の花嫁を邸宅へと入れると、ナキアの隠し場所を思案し、まさに指示を出そうとしたところに事件は起きた。

ナキアを乗せた馬車に、暴走した馬が突っ込んだのである。

もちろん 真緒の仕業だ。


「なかなか豪快な娘のようね、渡りの姫は」

扇で隠しているが、その悦びまでは隠しきれない。アルマリアの機嫌の良さが伝わってくる。

ヴィレッツから先程起きた顛末の報告を受けて、アルマリアの瞳は輝いた。なんとも痛快である。

山神の娘も手に入れた。

役者は揃った。

陽が落ちて松明が炊かれ、王妃が呼び寄せた貴族たちの馬車が乗り入れ始めた。賑わい始めた邸宅をテラスから見下ろし、控えていたヴイレッツに艶やかな笑顔を向けた。

「宜しくて?」

ヴィレッツも恭しく貴族の礼をとり応えた。

「お心のままに」

ヴィレッツのエスコートに合わせ 手を載せると扇越しに呟いた。

「この国を必ず護るわ」
















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