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128.瓢箪から駒

もう少し、あと少し!

前を見れば、木々の隙間から建物が見え隠れしている。あれが王家の庭か!

手綱を握る手に力を入れて、振り落とされないように最後の力を振り絞る。馬って走るの早いんだね…。

歩いている馬にしか乗ったことは無いし、一人で乗ったこともない。こんなに乗り心地の悪いものだとは思わなかった。お尻や太ももは鞍に打ち付けるし、捕まるところがないから、馬の首にしがみつくしかなく、両腕は鉛のようだ。二度と乗りたくない。


━━━ねぇ、馬ってどうやって止めるの?


そういえば知らないよ。誰も教えてくれなかったし。

こんなスピードで走っている馬、どうやって止めるの?飛び降りればいいの?

待って!これより遅い馬車から落ちてあの痛さだよ。それより早い馬から落ちたら死ぬんじゃない?死ななくても相当痛いよね…

考えているうちに建物は近づいてくる。

騎士さん、この馬 止めて!数人の騎士の脇を走り抜けたが、馬の勢いに反射的に避けられた。道を開けてどうする!真緒は身体を起こし手網を自身の方へ引き寄せる。馬首が上がり、苦しげに首を振られると真緒の身体が大きく揺られ、浮遊する。その瞬間、自分の目指す先に何かがあるこに気付いた。

馬車!?

派手な装飾がされた大きな馬車が止まっていた。

そのまわりに人が集まっているのがわかる。

暴走する馬と娘の姿は さすがに騒ぎになっているのか、騎乗した騎士が追いかけてきてくれたようだ。その蹄の音にヤル気になったのか真緒の馬は更にスピードをあげた。

(なんで早くなるの!持ち主と同じで負けず嫌いなの?)

絶対文句言ってやる!

いま文句を言っても現実は変わらない。このままではあの馬車に玉砕だ。

何も出来ないまま、馬車との距離は縮まり真緒は覚悟を決めた。

ギュッと固く目を閉じ、衝撃に備える。

「手を離せ!」

その声を意識する前に、瞬間的に身体が反応した。

浮遊感が真緒を包み、身体が宙に投げ出された。

轟音と共に、馬と人間の悲鳴が響き渡った。

馬も悲鳴あげるんだ…どうでもいい感想が頭をよぎる。このまま地面に落ちたら痛いんだろうな…、骨折れるかな…

自身の身体も地面でバウンドする感覚があり、予想通りに痛みが襲ってきた。頭を護らなきゃ、咄嗟に両手で覆う。身体を丸め受け身を取れた自分、偉い!

あれ、地面…こんなに柔らかかったっけ?

痛みはあるが、馬車から落ちた方が何倍も痛かった。そうっと目を開けば、視界一面、紫。なぜ?

「…大丈夫か?」

苦しげな声に訊ねられ、ようやく思考の海から這い上がると、土の匂いに混じって懐かしい香りがした。紫紺のマント姿が真緒を受け止めていた。抱きしめられる腕のなかで、早鐘の鼓動が真緒を迎えた。

「なんでこんなこと…」

「ライル!エイドルを助けて!早く!」

大好きな人の温もりに危うく人の道を外れるところだった。エイドルは危険に晒されているのだ。早く助けないと!

ライルの言葉を遮り 縋りつくと、エイドルを助けて欲しいと懇願した。

「私は大丈夫!馬に蹴られても死なないから!」

真緒は腕から抜けて素早く立ち上がると、ガッツポーズをして 大丈夫だから、とアピールした。

呆気に取られていたライルだったが、真緒の後ろにきた人物に頷き返すと、すぐに騎乗し森へと向かっていった。

「おい」

これも聞き覚えのある声だ。いつもより低く感じるのは、感情が籠っているからだろうか、

「どういうことか、説明してもらおうか」

観念して振り返れば、仁王立ちするライックが、怒りを全身で現していた。背後に焔が立ち上ってみえる。

「どうもすみませんでした!」

こういうときはまず謝罪だ。90度を目ざし、深々と頭を下げる。勢いよく行き過ぎたのか、そのまま身体が傾いだ。あれ?目の前に闇が広がる。自分で身体が支えられない。踏み出したいのに足が動かない。腕が伸びない。これじゃぁ地面にダイブしちゃう…

「━━話は後だ。まずは治療だ」

暗い視界でも方向が変わったのがわかる。ライックが肩を抱き寝かせてくれたようだ。

喧騒もなんだか遠くで聞こえる。馬、大丈夫だったかな…。馬車って案外脆いんだなぁ…。誰か乗ってたのかな、怪我した人がいたら謝らなくちゃね…

とめどない思考がテロップのように流れる中、ライックに抱き上げられた。意識が散漫になり、腕の中で気を失った。


気を失った真緒を抱いたまま、ライック馬車に近づいた。馬車の周りいたであろう貴族たちは、駆けつけた騎士や使用人たちによって離れた場所まで連れていかれ手当を受けている。チャンスだ。

ライックは自身の傍に控えたいた腹心に真緒を託すと、馬車へと乗り込んだ。そして、少女を抱き抱えて降りてきた。

「大事な花嫁に何かあっては一大事」

芝居がかった物言いに自分でも笑いがこぼれそうになる。それを必死で堪えて腹心と共に建物へ向かう、

(シュエット)はよく動く。ライックが目配せすれば、騎士の何人かが自分らの護衛と、追うものがないよう残った貴族を監視するように動く。

(いい仕事をしてくれたな、マオ)

ライックはほくそ笑む。どうやって奪還するか頭を悩ませていたが、こうと易々とことが運ぶとは。

腕に抱く少女は眠っている。

馬の衝突によるものでは無いだろう。馬車の中は甘い香りがしていた、恐らく薬で眠らされているんだろう。

山神の使いの娘、ナキア。

彼女を無事に奪還することから始まるのだ。

今晩の宴は、素晴らしいものになるだろう、ライックは珍しく高揚する気分を味わっていた。








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