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124.拘束

身体に何かが纏わる感覚が煩わしくて、真緒は目を覚ました。窓のない部屋は深い闇に支配されており、自身のシルエットすら確認できない。煩わしさを払おうと腕を動かしたいのに、のしかかる重みに動かない。

(…なに?)

柔らかく温かいそれが、人肌だと理解するのに時間はかからなかった。真緒の脳が一気に沸騰する。

う、動かない!火事場の馬鹿力ってこういうときに発揮するんじゃないの!大混乱の思考で必死の抵抗を試みる真緒の耳元に息がかかる。

「…まだ眠る時間だよ」

低くはっきりとした声に更に驚き、強まった力に抵抗すると、身体が軋むくらいの強い力が真緒を襲い、思わず声が漏れた。抱き込まれているんんじゃない、拘束されてるんだ…、なに?なんなの?腕を動かそうとすればその手首を掴まれ マットに縫い止められた。

「あまり手荒なことはしたくないんだけどな」

更に込められる力に、抵抗しません!とばかりにうんうんと何度もうなづいた。でも、こんな暗がりでちゃんと伝わったのだろうか?

真緒の意思表示は伝わったのだろう、次第に力は弱まり静かな寝息が室内に流れた。

(…ってか誰?)

思い当たるのは、イヴァンナだけだ。後ろから抱き締められた状態では、顔もわからない。そもそも真っ暗闇の中では見たところでわからない。相変わらずの力で両腕ごと腰を抱かれていては、起き上がることもできない。そのまま一睡もせずに朝を迎えた。


━━━と思っていたが、気づけば独り。

いつの間に眠ってしまったのだろう。

意外と太い神経だったのね。まあ、異世界でやってこれてる時点で人より図太いのは証明済みだよね、うん。それにしても、誰かに抱き込まれて眠るなんて乙女の警戒心が無さすぎて泣けるわ…。まぁ、女の子同士だし?妖しい雰囲気になった訳では無いし。BLはちょっと萌えるけどGLはかなりハードルが高い。知らない世界すぎて萌えにたどりつけそうになかった。

妄想を含んだ現実逃避中に、イヴァンナは帰ってきた。窓がないのに明るさを感じるのは、天井近くの壁の隙間から差し込む陽の光があるからだ。どうやら半地下にこの部屋はあるらしい。昨日と変わらず美しいイヴァンナにやさぐれた気持ちになるのはなぜだろう…。ジト目でその姿を追う。無駄のない仕草は中性的な、いや、どちらかというと男性的な印象を受ける。男性的…その言葉が脳に浮かんだ瞬間、強く抱き締められる感触が甦り、真緒は想像してしまった恥ずかしさに枕に顔を埋めた。

ん?この香り…

テリアスに嗅がされた匂い。勢いよく顔を上げて枕元を確認するが、香りの元はなかった。

「もう始末したよ」

涼しい声が告げる。やっぱり気のせいじゃなかったんだ。昨日感じた甘い匂いは、薬だったのか!

「騒がれると厄介だからね」

悪びれる様子もなく、素敵な笑顔が返ってくる。

はぁ…、もう薬がないならいいか、真緒は早々に諦めてもそもそと起き出した。小さいテーブルにはパンとカップが置かれていた。一人分ということは、イヴァンナは食べたのかな?それ、マオの分だから食べてね、そういうとまた出ていってしまった。相当寝てたのかな?薬の効果だから仕方ないよね、私の図太さだけじゃないはず。自己弁護をしっかりしつつ 食事を済ませると、ベッドの足元に服が一式揃えられていた。

これ着ろってこと?

いいところのお嬢様風ワンピースに袖を通す。伸ばした手首に目が止まり、指の形に残る赤紫にしばし固まる。凄い力だな…。無意識に擦りながら着替えを終えた。目立つ髪にスカーフを巻いて隠す。ドレープの多いスカートにちょっと心が踊った。だって女の子だもん。

戻ってきたイヴァンナは女騎士からスレンダーな家庭教師風の美女になっていた。その後ろに執事と騎士がいる。

「マオ、貴方はとある貴族の娘よ。私は貴方のお付の者というところかしら」

「待ってください。街に入るのに助けて貰ったことは本当にありがとうございます。でも、やらなくちゃいけないことがあるんです。だから一緒に行動できません」

ごめんなさい、とお得意の90度お辞儀をすれば、イヴァンナは真緒の腕を掴んで身体ごと壁に押し当てた。

「付き合ってもらうわよ、マオ。あなたは私のもの。それにお友達を助けたいんでしょ?━━ナキア、っていったかしら?」

美人が凄むと迫力が半端ない。それよりなぜナキアを知ってるの?真緒は腕を締め上げる痛みに耐えながら問い返すが、その応えはかえってこなかった。かわりに笑顔のまま真緒の身体を拘束すると、執事と騎士は衣装箱に真緒を押し込めた。

「街を出るまでは大人しくして頂戴」

蓋を閉めた木箱は、クッションが敷かれており意外と快適だった。って、閉じ込める気満々だったってことでしょ?後ろ手に縛られては手が出せない。浮遊感に咄嗟にめを瞑れば、どうやら運ばれているらしいことが分かる。

外に出たのか、街の喧騒が聞こえたが、それも直ぐにくぐもった音に変わった。馬車に積まれたようだ。


それにしてもだ!

私の護衛(エイドル)はどうした?なぜ来ない?

村から居なくなってかなり経つ。とっくに騒ぎになってるよね。ナキアが誘拐されたことで、私に構ってられなくなったのかもしれない。でも、エイドルは私の護衛だよね?私のこと、探してくれないの…?

売り言葉に買い言葉、それでも言い合える関係は心地よかった。それは私だけだったの…?

ライルに頼まれたから、それだけなの?

自分の置かれている状況がわからず、不安が募る。

エイドル、生きて会えたら絶対許さないから!


小刻みな振動を背中に感じながら、エイドルへの恨みごとを呟く。恨み尽くして、言葉が尽きる。


ねぇ 助けに来てよ…


思わず、最後に本音が漏れた。

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