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122.それぞれの思惑と深まる夜

「おい、ネズミがいたぞ」

ライックに連れてこられた青年をみて、イザは驚きのあまり声が出なかった。エイドルの顔色は真っ青で、唇は乾き目は虚ろだ。一体 何があったんだ?

イザはどこか楽しげなライックとエイドルを交互に見遣ると、大きく息を吐き、

「何があったのか教えて頂けますか?」

とライックに視線を定めた。ライックは肩を竦め、エイドルの背を押した。イザ、お前さんに用があるんだとよ、俺も聞くがいいか?とソファにどかりと腰を下ろした。戸惑い固まるエイドルに、話があるんだろ?と促す。その言葉で我に返ったエイドルは今朝からの出来事をできるだけ簡潔に私見を交えないように話した。


護衛の解任はイザも知らなかった事実のようだった。マオの護衛自体がライルからの依頼であり、自警団とは無関係だ。団長が預かり知らないことである。

話しの全容を聞いたライックは、イザに目配せするとエイドルを退室させた。

「山神の娘はサウザニアに連れ去られたのは間違いない。問題はマオだ。新しい護衛はイヴァン、といったな。宰相閣下に報告した方が良さそうだ」

訝しげにライックを見ると、からかうような表情は失せ、懐刀のライックの表情だった。

「特徴からいってイヴァン殿下でだろう。王妃が国から連れてきたサウザニアの王子だ」


イザはエイドルに控えの間で待つように言うと、ライックと共にニックヘルムのもとへ向かった。王妃が絡んでいるとなれば、宰相の判断が必要となると判断したからだ。

宰相の執務室では、ニックヘルムが難しい顔でヴィレッツと向きあっていた。深夜の訪問者に片眉を上げで一瞥すると、ライックの表情から何かを察したのか全員に着席を促した。

「…マオの事か?」

察しがいいですな、ライックはニックヘルムの問いに肩を竦めたが、ヴィレッツをみて 、あぁ、と納得したようだった。

「…蜘蛛(アレニエ)ですか」

ライックの言葉にヴィレッツは頷くと、イザに視線を移した。その視線を受けてイザの視線が揺れた。尊き方々と同席する場違い感は、国王マージオの護衛についてからずっと感じていたが、当たり前のように 国家の大事に繋がる話し合いの場に同席させられている自分に戸惑っていた。

ヴィレッツはそんなイザの心を見抜いたのか、目を細めた。

「ここでは実力が全てだ。能力のあるものを使う。何か問題があるか?」

そういわれてイザは居住まいを正した。

そして ニックヘルムに視線を送ると発言の許可を得て、エイドルから聞いた話しをそのまま語った。

イヴァンの名が出ると、二人の表情はより厳しいものになった。

「マオを連れ去ったのはイヴァン殿下で間違いないようですな。その目的を掴んでおられると?」

ライックは、二人の様子からイザの話がこの事実を裏ずけしたのだと悟った。アレニエからの報告もイヴァン殿下に関するものだったのだろう。

「イヴァン殿下と一緒ならば、マオは安全だと思うが…」

苦々しげに唇を歪めた。ニックヘルムの珍しく歯切れの悪いもの言いにライックは眉を寄せて言葉の続きを促した。

「…王妃の話では、今回の動きにイヴァン殿下は関係ない筈なのだがな。どうやら勝手に動いておられるようだ。イヴァン殿下がマオに興味を持たれたようなのだ」

ニックヘルムの眉間のシワが深さを増した。

「王妃は、マオを繋ぎ止める相手にイヴァン殿下を画策しておられるようなのだ」

その言葉を継いだのはヴィレッツだった。そんな思惑があるから、イヴァン殿下の動きを敢えて制止しないのか。ユラドラに行っているライルはどうなるのだ?ライックはニックヘルムを睨みつけるように視線を向けた。貴方の息子の幸せはどうなる?マオの気持ちは?貴方はそれでいいのか?

「わかっている、ライック。私とて考えて無い訳では無い」

ライックの視線を手で制し、先ずはサウザニアと繋がりのある貴族をこの機会に抑え込むことだ、と告げた。

山神の娘を拐って交渉の材料と画策する一派を殲滅する。

「山神の使いは我らと同盟関係にある。我らが鉱物資源を護り、国境を護る始祖の一族だ。エストニルは18年前のような弱い国ではない。ユラドラと関係を結んだ今、山神の使いを護る力は充分にある。サウザニアの王権争いの火種を、エストニルに持ち込ませない。そして、これに関しては王妃が動いておられる」


控えめなノック音に会話が打ち切られる。

それはヴィレッツに面会を求めるタクラの訪れを告げるものだった。

「━━来たな」

ヴィレッツの表情が悦びを得たものに変わる。案内するように返答すると、ニックヘルムに向き直った。

「この交渉を私にさせて貰えないか」

ニックヘルムは頷き了承すると、ライックに告げた。

「ライルを呼び戻してくれ。王家の庭に来るようと」

ライックは頷き、イザを伴い退室した。ここからの話には自分は関与しない。自分の役割はサウザニアの王権争いに関与する貴族の殲滅だ。


廊下をイザと並び歩きながら、ライックは心に秘めていた思いを口にした。

「なぁ、俺の元で働かないか」

自警団を辞めて、俺の右腕となって欲しい。

イザは思いがけない言葉に足が止まった。真剣に見つめるライックの瞳と視線がぶつかる。

「俺と仕事をすれば、マオを護れるし 近くに居られるぞ。━━いや、違うな。マオの傍にいてやって欲しい」

「俺はマオに言ったんだよ。帰せない。この世界で生きていく覚悟を決めてくれって」

酷いだろう?ライックは自嘲する。

「だからマオの周りにはマオが心許せる者に多くいて欲しい、そう思っている。勿論イザ、お前の能力を買っての事だ。考えておいて欲しい」

イザを振り返ることなく、ライックは足早に去っていった。


それぞれの思惑を秘めて、夜は更けていくのだった。











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