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120.それぞれの決意

エイドルが急な呼び出しを受けて ベルタの街ヘ向かったのは朝だった。

呼び出した主は自警団の団長だった。

通常は直属の上司であるイザから指示がある。現在イザは国王の護衛についており自警団に居ない。だから団長なのか?団長自ら呼び出される用件など、エイドルには思い当たらなかった。

用件は マオの護衛を解消する というものだった。

何度理由を訪ねても、団長はマオの意向だと言って詳しくは教えてくれなかった。


ならば本人に聞こうじゃないか。

そうして エイドルはチキの村へ馬を走らせているのである。

歳が近いこともあって つい遠慮が無くなり、口が悪くなったことは認める。でも、それはあいつ(マオ)も同じだろう。それが居心地良く感じていたのは自分だけだったのか。いつかは終わりがくる護衛の任だが、こんな不意打ちでの解任は納得できなかった。マオならば、気に入らないことは直接言う筈だ。


自警団であれやこれやと引き止められて、チキの村へ戻ってきたのは夜だった。

いつもは灯りもまばらな村は、煌々と焚かれた灯りに照らされ、祭りのような賑わいだった。明らかに祭りと違うのは、行き交う村人の表情が強ばり、殺気立った男たちの怒声が響いているからだ。

何があった?…もしかして、マオか?

馬を繋ぎ、リュードの元へ急ぐ。

厳しい表情でタクラと長老たちが会話を交わしているのが目に入った。近づいていくと、どうした?と言わんばかりの顔で迎えられた。

「マオに何かあったのですか?」

エイドルの言葉に 皆一様にポカンとした表情になり、エイドルの方が焦った。どうやら齟齬があるようだ。

「何があったのですか?」

質問を変えた。するとタクラが苦しい表情で教えてくれた。

「ナキアが連れ去られた」


それは昼前に起こった。朝から野草を摘みに出かけたナキアが姿を消したのだ。護衛についていた男たちは離れた沢で死んでおり、その手口は鮮やかで サウザニアによるものだと推察された。

マオではなかった…不謹慎にも安堵してしまったエイドルは慌てて表情を引き締めたが、タクラの言葉に耳を疑った。

「エイドルこそどうした?マオはここに居ないのに」

居ない?今度はエイドルがボカンとする番だった。

それをみたタクラの表情が変わった。

「護衛は交代したんだろう?」

昼前にナキア行方不明の報が入り 村が混乱していたときに、真緒の安全を考えてベルタの街へ連れていくと新たな護衛が告げたというのだ。対応に追われて見送りはできなかったが、そのときに真緒を連れて行ったのではないかと。

その事実を聞かされて、エイドルは固まった。

どういうことだ?誰が真緒を連れ出した?どこに?

自分はさっきまでベルタの街にいた。自警団と第四師団の本部は同じだ。新たな護衛が真緒を連れていく場所はそこしかない。そして、そこに自分は居たのだ。真緒が連れてこられた事実はない。

「…新たな護衛は名乗りましたか?」

「あぁ、イヴァンといったかな。女のような顔立ちの男だったぞ」

知らない名だ。詳しいことは知らされていないが、真緒は 王宮近衛であるルーシェが護衛に着くほどの何かがあるのだ。どうする?

黙り込んで考えるエイドルの姿に、タクラは何かを感じ取ったようだった。

「…居ないのか?」

低く唸るような声がエイドルを問い詰める。その迫力に身体が自然に震えた。

自分はベルタの本部からきた。ずっと居たが真緒が連れてこられた事実はない。ただ、確証がないのだ。

エイドルの言葉にタクラも黙り込む。このふたつの事柄に繋がりがあるのだろうか。

「もう一度、ベルタに戻り確認します」

ナキアのことで情報があるか?何か伝えることがあるかタクラに確認して、エイドルは深い闇の森に馬を走らせた。


エイドルの後ろ姿を見送って、タクラはリュードの元へと向かった。リュードは見張り台を兼ねた塔の上で瞑想していた。タクラの近づく気配を察したのか、ゆっくりと開眼する。タクラはリュードが話し出すのを待った。

「…我は、一族の長として動く」

それは要求を跳ね除けるということ。人質をとり、交渉のテーブルにつかせ意に従わせようとする者たちに屈しないということ。━━━そして、娘のナキアを見殺しにするという事実。

「…それを良しとしない者もおるだろう。我はこの(のち)の全てを お前に託す」

決意を秘めた静かな声が、夜闇に溶けていく。その声色は反論を許さない、統べる者の意志の表れ。

タクラは深く頭を垂れ、諾 の意思を示したが、その唇は強く結ばれ、悔しさを隠そうとはしなかった。

こんな卑劣なことで、偉大なる長と妹を失うことへの怒り。無力な自分。

「━━エストニルの力添えは望めませんか?」

タクラは意を決して発言した。

長の決定に異を唱えることは勿論、意見を述べることは有り得ない行為だ。それでも、敢えてタクラは口にした。その決意を責めることなく、リュードはタクラの肩に手を置き諭すように言葉を紡いだ。

「これは山神の使いで解決すべき問題だ。エストニルを巻き込めば 再び戦乱が起こる。サウザニアとの力の差は大きい。始祖の一族としてエストニルを護る」

だから、卑劣な奴ら(サウザニア)の手を取るつもりは無い。

ナキアは始祖返りのシャーマンの力を受け継ぐ者だ。本人も自覚と覚悟をもっているはずだ。


リュードは黙り俯くタクラの背を優しく撫でると、そのまま砦を離れていった。

残されたタクラは月光に光る砦の床を睨みつけるように見据えていた。

何かないのか…!

新たな関係をエストニルと築いていけないのか…

ユラドラと手を組んだ今なら、サウザニアに対抗する力をエストニルは得ているのではないか?


護ること━━━

ときにそれは 攻撃的であってもいいのではないのか

悲しみの結果で得るもの?

そうじゃない

足掻いて もがいて 苦しんでも 掴み取る


そんな形でも あるのではないか━━


強い光を帯びた決意の瞳が

夜空の星を捉える


タクラにもう迷いはなかった










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