12.この気持ちの正体
━━肯いちゃったけど…
ちょっと冷静になってきたら、なんだかとっても恥ずかしい…私も会いたい、とか…
脳内で自動再生されて、顔が火照る。
リプレイに意識を持っていかれていたが、気づけば目の前のライルと見つめ合たままだった。
反射的に俯いたが、顔から火が出るほど真っ赤だろう。
ライルの指が真緒の髪を絡めては解き、その手が優しく頬に触れる。恋愛超初心者の真緒の想像を超えたシチュエーションに、心臓が暴れる。
恥ずかしいのに、触れていて欲しいと思う。
なんだろう この気持ち…
「ん~~~っ」
恥ずかしさにスカートを強く握り締めて唸る。こんな気持ちは初めてだった。
真緒は恋愛に関心がなかった。
自分の出自を思うと、どうしても異性に対して冷めた目でみてしまう。友達が恋愛話で盛り上るほど 気持ちは冷めていった。そんな自分がこんな気持ちを抱き、持て余している。
(これも異世界効果、とか?)
いやいや。とにかく落ち着こう。うん、落ち着こう。
あんなイケメンに見つめられたから、私の脳が勘違いしたんだ、うん。
必死に言い訳を考えて自分を納得させようと頑張る。
何度も深呼吸を繰り返してようやく火照りがひいてきた。過剰なスキンシップを続けるライルにひとこと言ってやろう と口を開きかけたとき、鐘の音に遮られた。手伝いに戻らなければ。
「帰らなきゃ」
短く言って立ち上がる。ライルも真緒に続き立ち上がった。見下ろされ見つめられると、再び心臓が暴れだした。居ても経っても居られず逃げ出した━━はずが、ぐっと腕を取られ背中から抱き込まれていた。
「また明日、ここで」
耳元で囁かれ、解放された。
真緒はそのまま走った。振り返ることができなかった。
どうやって帰ってきたのか。
気付いたら宿屋の庭で花を眺めていた。淡いパステルの花が幾重にも咲き、庭は華やかな絨毯のようだった。そんな景色も目に映らない。
乱れた息も整い ぼんやりと庭を眺めていると、マルシアが庭先に現れた。
「マルシアさん、おかえりなさい」
村から帰って来たところのようだ。マルシアにおかしな姿を見られなくて良かった。貰い物の果物があるから食べようと誘われ、真緒も室内へと向かう。
真緒はこの気持ちの正体と向き合うのを 辞めた。
きっとすぐに冷めていく。フラッシュバックする青紫の瞳を無理やり記憶の奥へ追いやった。
ライルへの想いが心の中で色づきはじめていることに、真緒は気づかないフリをした。




