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118.ナキアを狙う者

チキの村に戻ってからは、平穏な日々が続いていた。

ユラドラとの戦争も終結し、今は戦後処理をしている最中だときいている。山神の男たちは残兵狩りと警戒のため山に入っているが、チキの村は平和そのものだった。

爆発から守ってくれた恩人がいるものの 火傷は思ったよりも広範囲で、首の傷、生身のキャニオニングの怪我などもあり、ヤシアによる半監禁生活が続いていた。

もう脱走しませんってば!

何度も訴えたが 聞き入れられることはなく、診療所のベッドを真緒が占有していた。時々、ナキアや回復したエイドルが話し相手に来てくれたが、エイドルは腹ただしいくらいに辛口だった。

怪我させたこと、そんなに恨んでる?

そろそろ許してほしい。言いたい放題のエイドルに心の中でため息をついた。

それでも口に出さなかったのには訳がある。エイドルの護衛付きならば、散歩に出てもいい、とヤシアの許可が降りたからだ。お小言でも嫌味でも、なんでも聞こう!外に出られるならばそれは小鳥のさえずりと同じだ。

昨日から楽しみにしていた外出の日。

朝からちゃんと着替えてご飯も食べて、待っている。なのに 昼を過ぎても待ち人は現れなかった。

口は悪いが約束も時間も守る(エイドル)だ。

何かあったのだろうか…?

そういえば、ヤシアの助手たちも姿を見せない。久し振りの外出に浮かれていて気付かなかったが、この建物だけ妙に静かな気がする。

気になりだしたら、知るまで頑張る性分。

始めは遠慮がちに窓から外を覗いていたが、なんの情報も得られないし咎められないので、どんどん行動が大胆になっていった。

気付けば、真緒の身体は村外れの井戸にあった。

ここは村での情報がいつだって手に入る場所だった。洗濯の合間に女たちがする話は、いい情報源だった。

洗濯の時間からはズレているので人影はなかった。残念な気持ちで村の入口にある砦に向かう。昼過ぎとはいえ、人気がない。これもいつもと違う光景だった。

抜けるような青空に爽やかな風が吹き、散歩日和だ。胸騒ぎがするこの状況でなければ最高なのに 残念でならない。一体なにがあったのだろう。

砦に近づくにつれ、殺気立った男たちのやり取りが聞こえてきた。

「見つかったか?」

「駄目だ、足取りが掴めない」

忙しなく人が行き交う様子が伝わってくる。さすがにそんなところに姿を現したら不味いことくらいは真緒にもわかる。大人しく診療所に戻ることにした。

踵を返した真緒の耳に飛び込んできた言葉に、足が止まった。

「マオ様を狙ったものか?人違いで攫われたのか?」

「囮にしたのでは無いか…」

私の代わり…?囮ってなに…?

村人たちのやり取りは続く。

「ナキア様が攫われたんだ。主だった男たちはタクラ様と山に入っていていないぞ」

ナキアが攫われたの?私の代わりに?

━━━またサウザニアの人たち?

簀巻き(簀巻き)にされ、連れ去られるナキアの姿がリプレイされる。真緒は怒りに身体が震えた。

どこで連れ去られた?

昨日ナキアがきた時、なんて言ってた?何かを摘みに行くって言ってなかった?思い出せ!

真緒は足早に診療所へ戻ると、動きやすいズボンと膝丈のシャツに着替えて部屋を出た。山に入るためだ。沢沿いに野草を摘みに行く、そう言っていた。あの滝より下流に群生しているんだと。

私の代わりにナキアが辛い目にあうなんて耐えられない。囮ってなに?

じっとしているなんてできなかった。もし身代わりに連れ去られたなら、変わることくらいできる、用があるのは私なんでしょう?

滝をめざして山へ入ると、空気が変わった。茂みに覆われて陽の光が届かないからなのか、薄暗く感じる視界に緊張感が高まってゆく。

いつも以上に早まる足に任せ進んでいくと、沢から外れ馬車が通れるほどの山道がみえた。荷馬車も通れそうなこの道は街に繋がっているに違いない。山道を人を抱えて移動するより、荷物に紛れて運ぶ方が楽な筈だ。国境を越えるならばその方が安全だ。

街に行けばイザがいる。

相談したら荷物を調べてくれるかもしれない。

真緒は野草の群生地をやめ、この道を辿ることを決めた。





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