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108.開かれた戦端

アルタスが陣を敷き終わった報告を受け、ライックは軍鳩を飛ばした。ライルとタクラは山岳の背面の予定地に到着したと報告を受けている。

(さぁ、幕が上がる。せいぜい上手に踊ってくれよ)

口の端を上げて、彼方に見えるその後ろ姿を見据えた。

「左右より火の手が上がったら、突撃せよ!…あとは 作戦通りに行動せよ」

ライックの指示に周りの男たちが動き出す。

合流前に戦端を開かせ、アルタスが国王軍を殲滅する助けをする。勝敗が決し、アルタスが国王軍の本陣に進んだところで、その機を狙いアルタス軍をライルたちと挟撃する。その頃には王都や古参貴族が率いる軍が追いつき、王都からの援軍を背後から叩いてくれるだろう。必要なら挟撃しても良い。

アルタスの始末は第三王子ヨルハルがすることだ。そのお膳立てをすることは、今後のユラドラの関係において多いに役立つ。マオにした仕打ち思えば自分の手で殺りたいところだ。あの男(アルタス)は葬られるべき人物だ。

ふと、ある男の顔が浮かんだ。

かなり発破をかけてしまったが、大丈夫だろうか?

根が真面目なだけにやり過ぎないといいが。アルタスが戦闘の中で命を落とすならいいが、エストニル側が手に掛けたとなると不味い。アルタスは王太子、これは王権争いなのだ。処刑はユラドラにさせるべきだ。

(…頼むぞ、ライル…)

可愛い弟弟子(おとうとでし)を思い、一瞬 遠い目をしたが、目の前の戦闘に集中すべく意識を切り替えた。



ユラドラ王都外れにある寂れた砦に荷馬車は夜闇に紛れ滑り込んだ。ルーシェは寝入ってしまったシスタニアを抱えて馬車を降りる。

「お待ちしておりました」

「お出迎えありがとうございます、ターナー公爵、おふた方をお連れしました」

背後にいたヨルハルがターナーに見えるよう、ルーシェは端に避ける。ターナーは涙を浮かべ、ヨルハルの前に跪いた。

「城へ殿下たちを残したこと、お許しください」

ヨルハルは幼さの残る顔ながら、覚悟を決めた表情でターナーの言葉に頭を振った。

「必要があってのこと。こうして無事に迎え入れてくれた、それでいいのです」

自分の祖父に近い年齢のターナーの手を取り立つように促す。ターナーはヨルハルにもう一度深く礼を取ると、建物の中へと導いた。ルーシェはシスタニアを侍女に託し、ヨルハルに続いた。

案内された部屋には、ヘルツェイと何度か顔繋ぎをした古参貴族が居た。

ヘルツェイと視線が合うと、御苦労、と目線が語る。ルーシェは黙礼で返した。

ヨルハルが席に着く、ヘルツェイが口火を切った。

「戦況ですが、民衆は砦に保護しました。立て篭りで制圧軍を引きつけることに成功しています。街道を塞いだので、王城へ軍が引き返すことはありません。王太子軍が王城から数刻前に王太子の援軍として出立、これも予定通りです。未明に王城を奪取しますが、ヨルハル殿下、お覚悟は変わりありませんか?」

ヘルツェイの鋭い視線を受けても怯むことなくヨルハル見つめ返し、その視線を集う古参貴族の面々に向けた。

「若輩者で器でないと自負している。それでも、この国の飢えた民を救いたい。私は王族の一人として責務を果たす。力を貸してほしい」

ヨルハルは躊躇うことなく頭を下げた。古参貴族から息を呑む気配がした。ヨルハルは15歳と聞いたが、王族としての矜恃を持ち、民を想い、必要とあらば臣下に協力を乞うことも厭わない。いい王になるだろう、ヘルツェイはその姿を頼もしく思った。

「━━━では、よろしいな?」

ヘルツェイの問いにヨルハルは無言で力強く頷く。

細々とした会議を終えて、各々が役割のために砦を後にする。ターナーとヨルハルは王城を奪取するための準備に入った。

「ルーシェ」

名を呼べば、消してた気配を顕にして現れた。

「奪取後はそのまま、ヨルハル殿下と追撃に向かう。ターナー公爵と王城を守ってくれ」

ルーシェは諾の意を込め頷いた。窓から見える外へ視線を向けているヘルツェイの横に並ぶ。父の教え子であり、テリアスの護り刀である男。この作戦に入って実力の差をまざまざと見せ付けられた。いつか越えたい。自分もヴィレッツ殿下の懐刀になり得るだろうか。この男に学ぶことは余りに多い。



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