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107.進軍

影が持ってきた報告を受けて、アルタスはほくそ笑んだ。

(始まったな)

首尾よく王城を手中に収めた。

払暁にも早いこの時間だが、ベルタの街の広場には アルタスを含め 多くの兵士たちが出立のときを待っていた。近くなければ互いの顔がわからない薄暗さの中、士気が高まっていく。ユラドラから紛れ込ませて集めた私兵とライックが束ねるエストニルの兵士だ。

これはユラドラの王位争いである。

エストニルはあくまで見届け役である。闘いの旗印はアルタスだ。アルタスの号令のもと、国境沿いの河へと兵を動かしてゆく。

「では、我々は後方と左右に広く展開します。アルタス様は先鋒を頼みます」

ライックの言葉に頷き、アルタスは前を見据えた。

報告では、すでに己の手の者たちが王都を出立し、数刻のところまで進軍している。このまま河を渡り軍を率いて進めば、王都からの道は閉ざされ、父王を挟撃することができる。父王の軍は背後が山脈のため、そちらは逃げ道はない。

(覚悟していただこう、父上)

にやり と表情を歪めた。

そのアルタスの姿を視界の端で捉え、ライックもほくそ笑む。

所詮、手の上で躍らされる道化だ。

せいぜい役にたってもらおう。


その頃、ライルはタクラと山神の使いの男たち、ライックから託された精鋭部隊を引連れて山岳地帯をユラドラを目指していた。王都からの軍と合流する前のアルタス軍を、背後の山側とライック率いる軍とで挟撃するためである。ライルが率いるのは少数精鋭部隊。国王軍との戦闘が決した後、タイミングをみて背後から奇襲をかける。

いまだ続く厳しい自然の要塞を黙々と進む。さすがライックに認められたもの達だ、愚痴や弱音は聞こえてこない。荒く乱れた息遣いではあるが、山神の使いの男たちに後れを取ることは無かった。

短い休息をとる。

岩場に寄りかかるように身を預け額の汗を拭うと、視界に指環が映った。飾りのない金細工の指環。小指を撫でるふりをして指環の感触を確かめる。

真緒を想えば仄かに熱を帯び それはライルの心を落ち着かせた。

「もう少しで目的の地につく」

タクラが水を奨めながらライルに近づく。ライルは水嚢を受け取り水を含む。喉を通る水の冷たさにひと心地ついた。

「むこうは河を渡り、ユラド国王軍と対峙したらしい。時は近い」

軍鳩なのだろうか、タクラの手から再び飛び立つ。

ライルは飛び立つ姿を視線で追い、返事を返した。

「あぁ、いよいよだな」

この闘いでアルタスを倒す。マオへの仕打ちを絶対に許さない。怒りと、戦い前の武者震いに身体が揺れる。焦りは隙を生む。ライルは深呼吸をして、熱を逃がした。

ユラドラも しばらくは国内の安定に集中するため手出しはしてこないだろう。この作戦を成功させ、功績を挙げて 国王マージオにマオとの婚姻を認めてもらうことがライルの目的だ。マオが元の世界に帰るなんて気持ちに二度とならないように 自分のものにする。

逃がさないよ、マオ。

再び熱の籠る身体を冷たい水を飲み下し鎮める。

短い休息が終わり、再び歩みを進めた。


河を渡ればユラドラだ。

朝日が水面に反射して輝き、自身の門出を祝福されているようだった。高揚感に頬を赤らめて、目前の父王軍を見据えた。

王都からくる味方と合わせれば、数の上でも劣勢という程ではない。

エストニル軍の支援もあるが、これは王位をかけたユラドラの争い。自身の手で勝ち取り国内に示すことが大事だ。

アルタスは斥候からの報告を待っていた。

新米の訓練と銘打っていたが、新兵など存在しないだろう。あの父のことだ。エストニルを奪う算段で配置しているはずだ。だからこそ、手を組んだ第二王子派が失脚しても退却せずに機を見ていたのだろう。

王城が落ちたことは伝わっている筈だが、ここで私を倒せば 取り返すのは易いと考えているのだろう。主力部隊を連れてきているということか。王都へと向かってくれれば 挟撃するつもりだったが、まぁいい。

合流して総攻撃をかければ良い。焦る必要は無い。


対峙する父王軍の左翼から、爆音と共に爆煙があがった。その音はアルタスの耳にも入った。

「何事だ!」

左翼は王都からの街道がある。味方が来たか?

アルタスの期待のこもった声に、違います!早すぎます!と副官の声が返ってきた。そのやり取りの間にも右翼からも火の手が上がった。

「ダメです!戦端が開かれました!」

「なに!?」

みれば左右から火の手に向かい兵が動くのがみえた。

(エストニルの奴らかっ!勝手に仕掛けたな!)

盛大に舌打ちして、本隊にも号令を出す。

始まってしまったものは仕方ない。結果が同じならば良い。一際大きな声をあげ、兵を鼓舞する。

アルタスは馬の腹を蹴り、戦場へと駆け出した。





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