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10.異世界らしさ

宿屋の手伝いにも慣れてきた。

朝は早いが、目覚ましがなくてもスッキリ起きられる。母に何度も起こされても起きられなかったのにこれも異世界効果なのだろうか。真緒の体内時計がきっちり時間管理してくれる。

料理はマルシアが担当し、真緒はその間に食堂の掃除をしテーブルの用意をしていく。飲み物、カトラル、ナプキンの補充、宿泊客が来れば席に案内し配膳する。片付けだってお手の物だ。バイト経験がたいへん役立っている。

宿屋の客は森を越えた街からベルタの街を行き交う商人や旅人だ。【王家の庭】があり騎士団の目があるため 盗賊に襲われることが少なく安全性が高い。商人は好んでこのルートを使う。

そして冬が終わり春を待つこの時期、王が【王家の庭】へやってくる。それを目当てに商人が、商売の種を求めてベルタの街へ集まるのだ。

いつも以上にマルシアの宿屋は賑わっていた。

客が出発すれば、洗濯に掃除、新たな客の迎い入れの準備と慌ただしく午前中が過ぎる。それが終われば夕方まで真緒の自由時間だ。初めこそ昼寝していたが、仕事に慣れた今はそれも必要なくなった。


さて、何をしよう。

この世界の暮らしは、中世ヨーロッパぐらいだろうか。電気はなく薪で火を興し、灯りはランプだ。

転生モノによくある魔法やチートは一切無く、至って素朴な普通の暮らしだった。戸惑いはあったが、割とすんなりと生活に馴染んでしまった。母の物語にも〈異世界らしさ〉が語られることはなかったから、母もすんなりと生活に馴染んでいたんだろう。


真緒はやりたいことがあった。

母の記憶が薄れないように、母の物語を形にしておきたい。

そして、この世界にやってくるかもしれない誰かのために、この世界の知っていることを書き記しておきたい。

自分はこのためにいるのではないのか、そんなことを考えていた。

部屋の掃除をしていて見つけた古いノート。表紙は色褪せているが、紙は傷んでいない。ページをめくると不思議な記号が並んでおり、その下にはひらがなや漢字、カタカナも書かれていた。右上がりの丸みのある母の書く字だった。

会話には困らないのに、文字はさっぱり解らない。

母も覚えようとしたのだろうか。これも〈異世界らしさ〉だわ、懐かしい母の字を指でなぞる。この世界にやってくる人が日本人とは限らないが、英語なんて無理!だから、日本語で書くことにする。

そう決意してノートに向かったが、何から書いていいのか途方に暮れている。一文字も書けないままベッドにダイブした。胸元の形見のペンダントが揺れる。

ベンダントを指で摘み、縁をなぞりながら 壁に掛けている形見のキャンパスに目を向ける。忘れていた訳じゃない。

そう、お母さんとの約束…


━この絵とペンダントを渡りの樹の元へ埋めて欲しい


書き出しから煮詰まっている真緒は、この約束から果たすことにした。

キャンパスに手を掛ける。

夕方まではまだ時間はある。渡りの樹まではそう遠くないはずだ。これを埋めてくるだけならそう時間はかからない。

マルシアは村へ出かけている。断ってから行きたいが、帰って来るのを待つのも時間が勿体ない気がした。

よし!

真緒はフードを羽織ると、キャンパスを胸に抱いて渡りの樹へとむかった。




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