1.渡りの樹①
初投稿です。
拙い文書ですが、よろしくお願いします。
独りよがりにならないように頑張ります。
はぁ はぁ…
自分の荒い息遣いだけがやけに大きく聞こえる。
山道を歩き続けてかなりの時間が経つ。
携帯ナビは既に役に立たない。
手書きの地図だけが、目的地までの標だった。
ちゃんと着くのか不安でしかない。
何度目かの深いため息をつき、空を見上げれば木漏れ日がなんとも眩しい。
額の汗をタオルで拭い、残り少ないお茶を大事に口に含む。
これ以上足を止めると動けなくなりそうで、真緒は重い足を踏み出した。
真緒は母子家庭に育った。
父親を知らない。
生活に余裕はなくても母は愛情を注いでくれた。
朝に昼に夜に働く母だったが、沢山の物語を聞かせてくれた。その瞳はいつも輝いていて まるで夢見る少女のようだった。物語の最後には幸せそうな笑みを浮かべてこういった。
「あなたのお父さんは王子様なのよ」
小さい頃はもちろん信じていた。王子様は本物のお姫様と結婚したからお母さんと結ばれなかったんだって。
でも、ずっと信じていた訳じゃない。
高学年になる頃には、公にできない関係だったんじゃないのかと子供なりに理解して、父親のことをきかなくなった。知らなくてもいい、と思っていた。だってお母さんが居てくれればいから。
その考えが変わったのは高校最後の冬休みだった。
母が仕事場で倒れた。
病院の医師から告げられたのは「末期ガン、余命2ヶ月」。
進学を諦めて、バイトと入院中の母の世話に明け暮れた。母が死んでしまったら、私はひとりぼっちだ。せめて父親のことを知っておきたい。このままでは父親のことを知る機会を失ってしまう…。悩んで 悩んで いつ切り出そうかと言い出せないまま時間だけが過ぎていった。
一日の多くを眠って過ごすようになり、いよいよその時が近づいているのを感じ、意を決して母の耳元で呟いた。
「私のお父さんは、誰?」
ゆっくりと瞼が開かれ、視線が交わると 微笑んだ。
それはとても美しい微笑みだった。
「あなたのお父さんは王子様よ」
そして 切ない表情を浮かべ胸元のペンダントに触れると吐息のように呟いた。
「私の全てよ。素敵な人…」
(そりゃないわ、最後まで王子さまとか)
母とのやり取りを思い出し、胸元のペンダントに触れる。
(いくらなんでも、それはない)
思い出したら疲れが一気に増した気がする。
でも、引き返すつもりはない。
こんな山道を進んでいる理由、それは母の最後の願いを叶えるためだった。
━━━━この絵とペンダントを渡りの樹の元へ埋めて欲しい
A4サイズのキャンバスを切なげに見つめる母の姿を小さい頃から何度も見た。病室では枕元に置いて涙を浮かべていた。きっと父親が描いたものなんだろう。
ペンダントはプレゼントだったのかな。
母は本当に父親のことを愛していたんだと思う。
王子様っていうのは理解できないけど。
母の地図を信じるなら そろそろ見えてくるはず。
妙な確信が真緒の心を占めていた。近づいている。
疲れているはずなのに、自然と歩みが早くなる。
まるでその樹に引き寄せられているようだった。
いつの間にか小走りになっていた真緒の視界が突然開けた。
渡りの樹と呼ばれる大樹が静かに真緒を迎えた。