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第8話 謎の組織

 鳥羽はスマホを取り出し、阿久の写真が載っているサイトを圭一に見せた。

 阿久教授に間違いない。

 しかし様子が変だ。怯えている感じがする。

 

 今度はスーツ姿の男がワゴン車から三人出てきた。真っ黒のスーツ。そのうちの二人が阿久の両脇を抱えた。この様子からして阿久と彼らは対等な関係ではなさそうだ。阿久はこいつらに誘拐されていたのだろうか? だとすると一体何のために……?


 鳥羽によると阿久は異世界の研究者。そこから考えると、スーツの男たちは何か異世界に興味を持っている連中だろう。とは言っても善人者たちには到底見えない。

 

 圭一は注意深く彼らを観察した。

 一人だけサングラスをかけ、タバコを吸っている。風貌からしてリーダーだろう。と言うことは、阿久を抱えている二人の男は彼の手下ということか。

 屈強そうな体つきのサングラスの男。髭も生やしている。年齢は四十半ばという感じだ。

 一方手下とみられる男二人はどちらも三十代前半という感じがする。一人は長髪。もう一人は短髪。短髪の方は目つきが悪い。阿久を睨み付けている。

 

 圭一は地響きが大きくなってきたことに気がついた。巨大な訪問者によるものだ。

 二体の訪問者は圭一らを挟むように接近している。

 圭一は迫りくる訪問者を見上げた。

 やはり信じられない……。

 宇宙人はいるかも知れない。この広い宇宙を想像すればいない方が不思議だ。しかし宇宙人が地球に来る、もしくはすでに地球に来ているとなると話は別だ。自分だけでなく多くの人も同じ意見に違いない。宇宙人は何処かにいるかも知れないが地球にはいない――。

 しかし、今、自分の目の前には人間とは別の生命体がいる。異世界から来たと言う意味では宇宙人ではないかも知れないが、目の前にいる訪問者の方が宇宙人より非現実的だ。にも関わらず、現に存在している。

 人間はちっぽけな存在だ。我々の知らない世界がまだまだある。この世界を理解するにはまだまだ時間がかかるだろう。いや、理解するなんて永久に不可能かも知れない。

 圭一は優雅に歩き続ける訪問者を見上げながらそう感じた。


 スーツの男たちに目を戻す。サングラスの男は運転手に何やら指示をしている。タバコを吹かしながら。

 運転手が出てきた。運転手も同じスーツ姿だ。ワゴン車のバックドアを開け、防護服みたいなものを取り出した。

 嫌がる阿久に無理やり防護服を着せている。一体何をさせる気なのだろうか?


 訪問者は、鼓膜が破れそうな地響きを鳴らしながら圭一たちを通り過ぎ、スーツの男たちがいる河川敷に近づいた。


 サングラスの男がナイフを取り出し阿久に手渡した。しかし阿久は落としてしまった。恐怖から手が震えているのだろうか? サングラスの男がナイフを拾い、阿久の手を広げ、ナイフを無理やり握らせた。

 前方の訪問者を指差し指示している。訪問者は彼らから五十メートルくらいのところにいる。

 嫌がる阿久をサングラスの男は蹴り飛ばした。


 酷すぎる……。何をさせたいのか分からないがあまりに酷い。

 助けにいくべきか……。

 圭一は松田の方を向いた。松田は首を横に振った。どうやら松田は圭一の考えていることが分かったらしい。


 サングラスの男はもう一度阿久を蹴り飛ばした。その弾みでナイフが飛んでいってしまった。阿久はよろめきながらナイフを拾い訪問者の方に歩いて行った。

「さっさと走れ」サングラスの男が叫んだ。ドスの効いた大きい声。阿久は走り出した。ナイフを突き出しながら。


「もしかしてあの怪物を倒そうとしているんでしょうか?」

 小声で鳥羽は圭一に聞いた。

「いや、さすがにナイフ一本では無理ですよ」

「そうですよね」


「じゃー阿久教授に何をさせたいのでしょう?」

 鳥羽の言葉に今度は灰原が反応した。

「も、もしかしてサンプリングではないでしょうか……」

「サンプリング?」

「あっ、はい。あくまで憶測ですけど……あの怪物の皮膚片とか一部を切り取って分析して……それで……」

「何らかの新材料に使用できるかの検証。要するに金儲け」

 松田が割って入った。


 金儲け――。

 その言葉を聞いて、圭一は、確か震災で避難している人の家に空き巣に入るというニュースを思い出した。

 人間というのはどこまでがめついのだろうか。数字の書かれたただの紙切れ。これを人より多く集めるために生きる。そのためなら手段は選ばない。そういうクズみたいな人間が少なからずいる。お金に対する人間の欲求。その方が目の前にいる訪問者より遥かに怖い。

 

 気づけば阿久は訪問者の足元にいた。無我夢中で訪問者の脚をナイフで突き刺している。

 しかし訪問者はそれに気づくことなく歩き続けている。

 訪問者が淀川に差し掛かった。川に入るなり突然蒸気のようなものが湧き上がった。


「蒸発?」圭一は声を漏らした。

「どうやら水に触れて反応しているようですね」

「ナトリウムとかマグネシウムって水と反応したっけ? もしかしたら、そういう金属からできている生命体なのか?」

「いや、ナトリウムなら大爆発しているでしょうし、マグネシウムならあんな溶け方しないと思います」

「灰原さん詳しいね」

「昔から化学も好きだったので」


「地球には存在し得ない合金かもしれません。もしくは、そもそも我々の世界、いやこの宇宙に存在する原子や分子とは全く別物からできているのかも知れません。つまり彼らの世界には水素原子もなければ酸素原子もない。陽子とか中性子とかも存在しない。我々には全く理解できない物質から成り立っているのかも知れません。それがたまたまこの世界の水と反応して蒸発した」

「だからあのスーツの男たちはその未知の物質を手に入れようと……松田さんそうですか?」

「おそらく……断定はできませんが」


 川に入った訪問者はみるみる小さくなっていく。もう一体も同様だ。

 それに驚いたのか阿久は尻餅をついた。

「さっさと戻ってこい!」サングラスの男が叫んだ。

 阿久はその男の元に走り出した。

 阿久が戻るなりサングラスの男は防護服を脱がせた。そして胸ぐらを掴み殴った。

 阿久が走っている時、彼の手にはナイフしか持ってないように見えた。採取できなかったのだろうか? それで激昂したのかも知れない。


 サングラスの男は内ポケットから何かを取り出した。

 拳銃だ――。

 男は拳銃を阿久の額に付けた。

 灰原が悲鳴をあげた。

 し、しまった。

 やばい、気づかれたか――。



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