第6話 初めての訪問者
新大阪駅に到着。圭一ら三人は新幹線から降りた。在来線に乗り換え大阪駅を目指す。新大阪駅から大阪駅は一駅だ。
大阪駅に着くなり圭一は「懐かしいなー。でも随分変わったな」と呟いた。
「懐かしいって、菅原さんて大阪出身なんですか?」
灰原が尋ねた。
「そう大阪出身。この駅の近くに梅田駅というのがあってそこにはよく行ったよ。学生の時にね。当時大阪駅には何もなかったからほとんど来た記憶は無いけど、それにしても随分変わったな」
エレベーターを登りながら圭一は思い出を語った。
改札口を出ると一人の男性が近づいてきた。スーツ姿できちんと整えられた髪の毛。優秀な営業マンという感じだ。
「お久しぶりです、松田さん」
鳥羽がその男性に声をかけた。圭一と灰原はきょとんとした。
「久しぶり、鳥羽さん」
「この方がサイキック松田こと松田浩輔さんです」
鳥羽は圭一と灰原に紹介した。続けて鳥羽は、圭一と灰原を松田に紹介した。
「はじめまして、松田です。サイキック松田として活動しています」
「テレビとは随分雰囲気が違いますね」
人見知りしない灰原がさっそく尋ねた。
「あはは。あれはテレビ用の衣装ですよ。インパクトある方が受けますしね。普段は普通の格好ですよ」
圭一はそれを聞いて安堵した。
「この先にグランフロント大阪という商業施設があるんです。そこのカフェを予約しています。そこで話をしましょう」
松田に案内され、グランフロント大阪を目指した。
とは言っても、ほとんど大阪駅に直結しているのでものの数分で着いた。
ニュースでは聞いたことはあったが、かなり大きい施設だ。グランフロント大阪だけでなく他の商業施設も立ち並び圭一が学生だった時とは全く別の駅になっている。
土曜日ということもあってか物凄い人だ。何か人酔いしそうだな。圭一はそう思いながら学生の時を思い返した。
南館と北館から成り立つグランフロント大阪。大阪駅から向かえば南館に先に入る。南館と北館とは道路で分離されており、北館へのアクセスは南館の二階の連絡デッキでつながっている。
そのデッキを渡り北館の六階へ。松田と灰原が話しながらエレベーター付近のカフェに入る。圭一と鳥羽もその後に続く。
「私が学生の時は大阪駅には何もなかったから、こういうお洒落なお店がある商業施設ができるなんて何か変な感じです」
「あはは。菅原さん大阪出身なんですか?」
「そうなんです」
「実は私も大阪出身なんです」
お店に来るまではほとんど灰原が松田と話していたので、圭一が松田と話すのはこの会話が最初になる。
四人が集まったのを確認したのか松田は奥の個室に入って行った。圭一たちも彼に続く。
個室の扉を閉めながら、松田は「実はここの店、私が経営しているんです」と言った。皆がそれを聞いて驚いた。鳥羽も知らなかったようだ。
テレビに出る時はサイキック松田として、普段はカフェの経営者。
店はお客で賑わっている。個室は一つだけしかないらしい。VIP専用なのだろうか。それにしても相当儲けているだろうな。圭一は個室をぐるりと見回しそう感じた。
皆が席につき、少し間を待ってから鳥羽が今日集まった趣旨をもう一度説明した。
「――説明は以上です。じゃー菅原さん、改めて菅原さん自身が体験した現象について話して頂けますか?」
鳥羽に促され、圭一は自身が体験した現象を話した。頷きながら聞いていた松田が声を発した。
「あまり時間的猶予はないかも知れないですね」
「と言うとどう言うことでしょうか?」圭一が質問する。
「多くの企業などがFAPIGシステムを使っていると思います。もちろん画期的なシステムだから当然でしょう。と言うことは、蓄積されるデータ量は日々凄まじい勢いで増加しているはず。データは電波に変換されるみたいですけど、もちろん電波なのでエネルギー自体はたいしたことはないでしょうが、それでも塵も積もれば山となります。実際に空間の爆発現象が起きたのなら予想外にデータ量、つまりエネルギーは増していると推察できます。放っておけば何が起きるか想定できません。一刻も早く阿久先生を見つけないと」
その後も松田は事態の深刻さを語った。誰もが静かに耳を傾けた。
「皆さんすいません。ここまでお招きして申し訳ないのですが、この近くに私の事務所があります。そこについて来ていただけますか?」
他のみんなは互いに顔を見合わせ快諾した。
グランフロント大阪を出た。
すると突然大爆発が起きた。
窓ガラスは吹き飛び、それだけでなく建物の一部も吹き飛んだ。直径10メートルくらいの領域だろうか。
しかし、不思議なことに爆風は爆発地点に吹き込んだ。爆発で吹き飛んだ残骸はその爆発内部に吸い込まれた。しかも爆音は聞こえなかった。
それだけではない。
爆発した空間が歪んでいるのだ。多くの人が呆然としている。中にはスマホで撮影している人もいる。
暫くすると、爆発内部に何かいることに気がついた。動いている。生物なのだろうか?
圭一だけでなく他のメンバーも緊張しているようだ。
這い出てこようとしている。我々の世界に。
何か出て来た。細長いものだ。脚だろうか。その次に腕や頭みたいなものがゆっくりと出てきた。
しかし我々の知っている生物ではない。眼とか口とかそう言うものが見当たらない。それに馬鹿でかい。ゆうに10メートル以上はある。
我々の世界に這い出て、ただただ真っ直ぐ歩いている。その先の建物を破壊しながら。
こいつが初めての異世界からの訪問者と言うわけか。