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第2話 FAPIGシステム

 昨日の式典が無事に終わり、気が緩んだせいか、目が覚めると時刻はもう正午過ぎ。全てから解放された気分で清々しい日曜日。心が踊る。


 土曜出勤した際の振替休日は、来週の月曜日に取得予定。明日の月曜日は、FAPIGシステムの本格稼働で、明日は出勤する必要があるのと、三連休にしたかったのが理由である。


 朝ごはん兼昼食としてインスタントラーメンを食べる。

 テレビをつけると思わず箸を持つ手がとまった。無理もない。自分がテレビに映っているのだ。

『次世代通信技術、ついに稼働!!』と題したニュース番組。昨日の式典の様子が放送されている。

 

 石井センター長のところはがっつりカット。圭一が発表している部分だけが放送されている。素晴らしい編集だなと思い、なんか照れくさいが有名人になった気がしてきた。

 

 そういえば、さっきからスマホがいつになく忙しく震えている。数少ない友人や両親からの祝福のLINE。適当な返事をして、テレビに目を戻した。


 番組の司会者がコメンテーターに意見を求める。コメンテーターはFAPIGシステムのメリットとデメリットについて言及した。


 メリットについては――。

 今までにないある種の無限容量のクラウドシステムという点。

 無限容量通信という超高速通信が実現したことで、ITに革命をもたらしたという点。

 今後、もしかしたらメモリにも応用できる可能性がある点。

 圭一はテレビを観ながらうんうんと頷いた。


 一方、デメリットについては――。

 セキュリティーの問題だ。

 セキュリティー面に関しては、圭一をはじめ、多くの研究員がその対策を講じており、心配はいらない。セキュリティー対策はバッチリである。そう言いたいとテレビを観ながら圭一は思った。


 ラーメンを食べ終わると圭一は畳の上に寝転がった。

 ニュース番組は次の話題になっている。

「明日から本格稼働か……」圭一はここに至る研究の経緯を回想した。



 ※ ※ ※



 無限容量通信――。

 それはFAPIGシステムの中核技術。圭一が大学院修士一年の時にその理論が発表された。

 量子力学と情報理論を融合した量子情報理論。無限容量通信の理論はその応用で、理論物理学者の和田(いさお)教授によって提唱された。

 圭一も大学院で量子情報理論に関する研究を行っていた。もちろん、和田教授のことは知っている。その理論が提唱されたとき、物理の世界で話題になったのが、今でも圭一の記憶の中に深く刻まれている。


 しかし当時、あくまで無限容量通信は理論上の話。『机上の空論』だと揶揄されたこともあったらしい。

 それを実用化レベルにまで発展させたのが、アメリカの物理学者のトーマス・エンリッヒ教授。圭一が修士課程を修了し、博士後期課程ドクターコース一年に進学した直後のときだ。

 現在では、『和田–エンリッヒ理論』とも呼ばれている。


 圭一がドクターコースに進学した際に、新しいテーマに選んだのが、この『和田–エンリッヒ理論』。修士課程のときのテーマを継続することも考えたが、これに興味がそそられたのと、当時の指導教官の意向もあり、テーマ変えをしたのだ。


 これは圭一がICARCに入所した後に知ったことであるが、『和田–エンリッヒ理論』の発表を受け、ICARC内でもその研究を行うことになったらしい。しかし当時、それに関する知識を有した人材が少なく、公募を出しても応募してくる人間はいなかったそうだ。


 そのため、ICARC内での『和田–エンリッヒ理論』の研究は思うように進まず、手をこまねいていた。

 再度公募を出したのがちょうど圭一がドクターコース三年になったとき。

 圭一は大学に残る気はないことを指導教官は知っていたので、彼の紹介でICARCの公募に応募したのだ。

 ICARCにとっても適材した人材。すぐに採用され、現在に至る。

 これが入所までの経緯である。


 FAPIGシステムは、圭一が入所して数年経った時に、圭一単身で思いついたものだ。


 おおまかな原理はシンプルである。

 地点Aから地点Bまでを無限容量通信で結ぶ。地点Aから送信された膨大なデータ(情報)は、すぐに地点Bに送られる。地点Bで受信したデータをすぐに地点Aに送り返す。地点Aに帰ってきたデータをまた地点Bに送る。そしてそれをまた地点Aに。

 こういうサイクルを無限に行う。そうすることで膨大なデータは、仮想的に空間上に蓄積されたと考えられる。つまり空間にデータを保存するということだ。


 無限に近い膨大な容量のデータを空間に保存。

 これがFAPIGシステムだ。


 実用化まで多くの苦難があった。

 それが昨日ようやく報われた。



 ※ ※ ※



 どうやらいつの間にか眠ってしまっていたようだ。時刻は夕方四時過ぎ。今日はほとんど寝て過ごしてしまった。


 あっ、そう言えば――。

 圭一は思い出した。昨日の式典の最後の質問である。

 頭を掻きむしりながら「確かフリーのサイエンスライターの鳥羽とか言ってたなー」圭一は呟いた。

 

 スマホを取り出し『鳥羽 フリー サイエンス』で検索した。

 すると意外とすぐに見つかった。顔は知っているので本人だと確認できた。彼自身のホームページだ。


 プロフィールや過去の記事の紹介などが書かれている。

 フルネームは『鳥羽慎一』というらしい。


 ただ、過去の記事が問題だった。

 『UFO』、『宇宙人』や『異次元の宇宙』など、少し怪しい記事ばかり書いているようだ。

「そっち系のライターさんか……」圭一は少し落胆した。

『データがもつエネルギーが空間に穴を開ける』という鳥羽の質問は、これらの記事のようなオカルトサイエンスだったのか。


 圭一は式典のあと、この質問に関してもう少し具体的なことを聞きたくなったので、鳥羽を探した。しかし彼はもう帰ったのか、見つからなかった。

 下手に回答して、このような記事に載せられるのも不甲斐ない。そういう意味では、昨日はあれで良かったかもしれないと思った。


 さて、のんびり散歩でもして、帰りにコンビニにでも寄って夕食でも買って帰ろう。

 圭一は服を着替えて家を出た。



※ ※ ※



 気のゆくままのんびり歩く。久しぶりかもしれない。最近はFAPIGシステムの式典のおかげで忙しく、精神的にも疲れていた。

 いつの間にか季節は進み、紅葉が増している。刻々と変化する夕焼けに、紅葉がうまく重なり合う。「綺麗だな」圭一はスマホで写真を撮った。


 結構歩いたようだ。ICARCの近くにまで来てしまった。

 

 FAPIGシステムの本格稼働は明日だが、ICARCの敷地内部のクローズドな環境下ではすでに動いている。明日はそれを外部環境でも使えるようにするのだ。とは言っても大したことではなく、ボタンを押すだけでいい。


 紅葉を眺めながら、ICARCの正門前を通り過ぎたとき、一瞬、ICARC上の空間が光ったように見えた。もちろん雷ではない。

「なんだろう?」

 音はしなかった。ピカッと光っただけだ。

 歩き疲れによる気のせいかもしれない。それにお腹も空いた。コンビニに寄って帰るとするか。


 圭一の久々のまったりした日曜日は、こういう感じで終わった。

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